編集室に届いた“たより”から【1】 「伝える」=「わかる」 峠工房「萌」106号より
当社には取材等をきっかけに、施設等から季節の便り等が届きます。このコーナーではその中で気になったものを不定期で紹介していきたいと思います。
1回目は、上飯田町で知的障害者・発達障害児・者支援や小・中学生支援等を行う特定非営利活動法人「峠工房」(松本淑子代表)の会報「萌」106号(2013年10月10日)で紹介された一文です。
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峠工房の行事は、特別な場合を除き、ひとりひとり切符を渡されて公共交通機関を使います。
以前は、親もキャンプなどの宿泊行事を楽しみにしていて、いつもいっしょに行動していました。初参加の親子がいたある時、改札を通ったあと、「なくすから、お母さんが切符をあずかる」というのを止めました。
「自分の切符は自分で持つ。なくすと降りられないから、ポケットにしまうこと」と、全体に注意をしてあるのですが、初参加のただ1人、言われた通りにしません。
それも、ガンとして人さし指と親指でつまんだままです。
隣席にすわって、何度も何度も注意した最後の、もし、なくしちゃったら、駅を出られないから置いて行くからねにも、「ウン、わかった」。
そして彼は、予測通りに切符をなくし、「持っていたのになくなった」とか「お母さんの切符ちょうだい」なんて大騒ぎ。事前の打ち合わせの通りに、「アラー、大変だねー。駅から出られないよ」とガヤガヤ言いつつ、おろおろするお母さんを引っぱって、園長と彼を残して、改札のかなたへ…。
園長が残ったので、自分は連れて行ってもらえる、と日頃の学校や家庭の対応から確信していて、ぜんぜん困っていません。なくしちゃったのだから、泣いても大声出しても切符は出てこないよね、と言われても「ウン、ない」と平気。
「残念だったねえ。じゃ先生もみんなといっしょに行くから、さよなら」とにこにこ顔――言うまでもなく演技。
ホントです!
連れてってください、と安心顔で頼んでも、「切符ないんでしょ。先生はあるの。ホラ、ちゃんとポケットにしまっておいたから」。そこで彼は糸口をつかんだとぱかりに、「今度からちゃんとしまうから」と叫びます。たいていの場合はここで一件落着でしょうが、峠工房はもうひと押し。「ウン、じゃァ今度からちゃんとやってね。きょうは、ここでさよならだね」と改札口へ向かうと、あらん限りのカで腕をつかんですがりつき、さすがに「大変なことになった」のを理解します。
そう、困らなければ、そして、口先だけの”おどし”や繰り返される言い聞かせには慣れているので、自分から改善しようとは思わないし、行動も変えません。
帰りには、「切符しまった。ポケットにしまった」とアピール。すかさずおとなのひとたちから賞賛の声と、園長のイヤミ。
1回でOKいうことはないけれどあの手この手のつみ重ね、で学ぶチャンスを逃しません。
すべてに通じることでしょうが、どんなに高潔な話でも、どんなに道徳的に正しい話でも、「伝える」は「わかる」につながらねば、意味ないと思います。
ただ、それぞれの立場や状況によって、やりかたは多種多様。認知の偏りがあったり、独自の見かた考えかたに執着を持つ人たちには、それなりの事情に応じたやりかたが必要と言えます。
端から見てればまるでコントでも、相手に中身が伝わることが重要です。峠工房にコントのシナリオを書かせたら、本一冊では足りないかもしれません。
最近では発達障害の概念も広まり、教育面でも不充分とはいえ配慮されるようになって、大勢連れての行事も、こんな楽しいことは少なくなりました。
それでも、今年は6人の初参加者がいて、又、NPO法人ナチュラルリボーンと連携ということで、そちらは当然初体験。少し心配でしたが、目常生活の流れを離れると、いつのまにかそれぞれが持っている良い面を発揮するようになるものなのですね。それを見るのもやはり楽しい。
■特定非営利活動法人「峠工房」【電話】045・301・4646【URL】http://tougekobo.sakura.ne.jp/
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