深谷町の団地の一室に響く、弦楽器の優雅な音色―。近隣の大学である横浜薬科大学の有志の学生4人が、個人宅を訪れ演奏を行っていた。曲目は「ジュピター」「カノン」「仰げば尊し」。バイオリンとビオラの力強い音が空気を震わせる。
ここに住む武田さんは、両親と3人暮らし。長男として、寝たきりの2人の介護を在宅で行っている。朝から晩まで、時に夜中も面倒を看なければならない状況で、日々ストレスは溜まる一方。ヘルパーも週2回は来るが、気晴らしも特になく「いつか自分も倒れるのではないか」と毎日不安に思っているという。
家から出て人とコミュニケーションを取りたいという思いで、同大学で働き始めた。ある日学内を歩いていると、弦楽サークルの3年生・下重さんが練習しているところに出くわした。全身を震わせるような生の楽器の音に足がすっと止まった。胸のつかえが一気にとれたような不思議な感触で、思わず下重さんに声をかけた。「ぜひ両親にも聞かせたい」という武田さんの熱いオファーに、下重さんはボランティアで演奏に行くことで応えることを決めた。最初は1人で弾く予定だったが、話を聞いた先輩3人も趣旨に賛同。カルテット(四重奏)をすることになった。
演奏後、静かな拍手が起こった。「母も話せはしないが喜んでいると思う」と晴れ晴れとした顔で武田さんは感想を話した。
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