絵本『それなら いい いえ ありますよ』の著者 澤野 秋文さん 六浦東出身 32歳
「落書き」から物語を紡ぐ
○…食べかけの煎餅(せんべい)や開きっぱなしの本、お多福のお面をかぶった大仏―。ページをめくると、端から端まで詰め込まれた絵が踊る。散らかり放題の部屋に住む怠け者の主人公と、不動産屋のノラ猫を描いた絵本『それなら いい いえありますよ』が「第34回講談社絵本新人賞」の佳作に選ばれたのは昨年のこと。607もの応募をくぐり抜けた作品が選考委員の評価を得、今年8月に刊行された。
○…六浦東出身。子ども時代は魚や昆虫などの図鑑を開いては真似して描いた。中でもお気に入りは水木しげるの妖怪図鑑。「細かい絵を描くのが好きなのは影響を受けているのかも」と話す。発想の原点に金沢区の自然豊かな風景がある。「平潟湾や野島でよく釣りをした。海や川など水を描きたいなと思うことが多いですね」。本作で表紙絵に選んだ舞台も水辺だった。
○…大学進学で上京。広告関係を経て、現在は新聞社のデザイナーとして働く。アイディアはいつも会議室で生まれる。「聞かなきゃいけない場面とか制約がある時に良いのが出るんです、僕の場合」と苦笑い。会議中の落書きから物語の種を拾うことも。はじめて同賞に応募した作品も、着物のパターンを真似しているうちに生まれた。「面白くなりそう」。そんな閃きを1コマの絵から繋いでいく。
○…3度目の正直で手に入れた絵本作家の道。趣味が仕事になった今は「無趣味状態」と笑う。「好きなことで下手はできません」。心強い味方は妻の「容赦ない」駄目だし。描きあげた絵本を読むのは常に最初だ。現在製作中の作品は細かい絵をいかした「探し物絵本」。「話だけでなく隠れている絵も発見してほしい。その反面気付かないだろうなぁと思いながら描いてます」と微笑む。最新作が世に出る11月には家族が増える。待望の第一子だ。「絵本を気に入ってもらえれば嬉しい。こっそり置いておいて反応を伺おうかな」。父の顔を覗かせた。
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