11月9日の神奈川新聞社主催第43回文芸コンクールで最優秀賞を獲得した 草野 理恵子さん 富岡西在住 55歳
水族館由来の想像癖
○…頭に浮かぶ映像を抽象的な言葉で紡いでいく。独学で学んだ詩はライフワークだ。第43回文芸コンクールに応募した『美しい日々』は、人の成長を「擬態の連続」ととらえ、本来の自分がわからなくなる様子を描いている。「イメージと、その比喩も鮮烈」と評され、最優秀賞に輝いた。
○…想像力は水族館で培った。当時父親が勤めていた室蘭水族館内に唯一あった社宅で、3歳から12歳まで過ごした。同設の動物園も含めて閉館後の敷地内は、すべてが自分だけの世界。夜の敷地内をひとりで見て回ることが、何よりの楽しみだった。魚や動物をじっくり観察しながら、それらが活躍する物語を頭の中で描いていたという。身についた「想像癖」は、詩を作るうえで欠かせない。
○…詩の魅力を知ったのは高校生の頃。「映像が浮かぶ詩が多い」という中原中也の作品に引き込まれた。「私もいつも頭に映像を浮かべているから、ピッタリ来たのかな」。大学卒業後、養護学校の教員を経験。その頃に難病の生徒から聞いた「何かのために学ぶのではない。ただ学びたいんだ」という言葉は、詩を書き続ける原動力になっている。「あと数年の命とわかっている生徒から聞いた。忘れられない」と話す。
○…二男の耕也さんは重度の知的障害がある。きっかけは生後3か月で発症したてんかんだった。いつ発作が起こるのかわからない中、夫と交代で夜通し様子を見る生活が十数年間。「詩を書いている場合ではなかった」と振り返る。必死の子育ての甲斐あり、ここ3年は発作がない。「生活が落ち着いたとたん、書きたい気持ちが噴き上がってきた」。現在1日2、3編を作り、文芸誌には毎月投稿。目標は詩集の出版だ。「自分と向き合う時間を大切にし、一生懸命書こうと思えるのは息子のおかげ」。来年1月は耕也さんの成人式。成長する息子を見ながら、「ただ書きたい」という気持ちを強くする。
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