大使館主催のリサイタルやサロンコンサートなどの傍ら、後進指導にも力を注ぐ 吉井 一摩さん 泥亀在住 37歳
ピアノがあればどこへでも
○…ピアノ演奏だけでなく、曲の背景や作曲家の解説を交えた演奏会を各所で開催する。「『ヨーロッパのクラシックはこういうもの』と少しでも伝えられたら」。作曲家が意図した思いやその心境に寄り添いながら、自分の想いを音に込める。「演奏家があるのは、聞いてくださるお客様あってこそ」と謙虚に話す。
○…父親の転勤で、10歳でドイツ・フランクフルトへ。自主性と心を育てる教育のもと、独自の感性を育んだ。だが、4年半で戻ってきた日本は息苦しい場所だった。「目立つといじめられ、黙っているとうまくいく」。勉強に追われ、4歳から始めたピアノに触れない生活が続いた。そんな中、学園祭でバンドのキーボードの担当に。「何でそんなに弾けるの? 続ければいいのに」という友人の言葉に、「やっぱり音楽をやろう」と心を決めた。一度入った高校を辞め、桐朋高校へ進学。「音楽なら自分を表現できるって思ったんでしょうね」
○…桐朋学園大学院卒業後、ハンガリー国立リスト音楽院へ留学。妻とは、演奏先の在日本大使館で出会った。「彼女は研修生として働いていて、音楽が好きで同い年。3年で帰国する予定が学生結婚で変わった」。外務省に勤める妻には、常に転勤の可能性がついてまわる。ハンガリーから帰国したのも、辞令があったから。それでも、生活をリセットし、拠点を変えることにためらいはない。「今あるのは妻のおかげ。どこでも行く。私はピアノがあれば、生きていける」
○…現在は演奏家として活動する傍ら、栄区の実家でピアノを教える。生徒は口コミで増え3歳から70歳と幅広い。「技術だけでなく、一人の人間として歩くことができるように」と願いを込め、ソムリエのように、時間をかけて一人ひとりにあった曲を選ぶ。「音楽は競争じゃない。傷ついている子がいたら力になりたい」。自分の心を一番豊かにしてくれるのはピアノ――その思いは揺るがない。
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