10年前、大きな揺れと津波が東北地方を襲った。浅間下交差点近くにある「居酒屋ねこ兵衛」の神野昭生代表も、福島県南相馬市で震災を経験した一人だ。
震度6弱の激しい揺れを観測した同市。沿岸部を9・3mを超える津波が襲い、市南部は福島第一原発事故の影響で甚大な被害を受けた。
ひっくり返る勢いで揺れる車、海からずっと離れた街中に転がる船、海岸方面から建物が波で近づいてくるようす--。神野さんが自身の目で見てきた景色は「メディアで報道されている以上のひどい状況」だった。
原発事故で横浜へ
妻、娘、知的障害がある息子の家族全員が無事。自宅のある地域は原発の避難区域だったものの、一時的に親戚の家に行くことができたため避難所生活は免れた。「息子を連れて、たくさんの人が集まる避難所へ行くのはきっと無理だっただろう」と振り返る。
放射能の影響で地元を離れることになった神野さんは、西区東ケ丘に被災者向けに一軒家を貸してくれる場所を見つけ、一家で横浜に移り住んだ。見知らぬ土地で全てゼロからのスタート。「家族でできる仕事がしたい」と2014年に店をオープンした。
震災当時は猫を5匹飼っていたほどの猫好き。店名の「ねこ兵衛」も猫愛が由来だ。震災時、避難所が動物を受け入れられない関係でペットを手放さなくてはいけなかった人も大勢いた。「わたしたち家族より辛い思いをした人がたくさんいるよ」。店内に飾られた愛猫の写真を眺めながらつぶやいた。
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