六ツ川在住の石井次雄さん(79)が7月、戦災集団疎開者が北海道開拓に奮闘する歴史を綴った著書『拓北農兵隊』を出版した。NHKで放送中の連続テレビ小説「なつぞら」で農兵隊が取り上げられたこともあり、本が話題になっている。横浜大空襲を経験し、農兵隊として北海道へ渡った石井さんは「平和について考えてほしい」と話す。
「拓北農兵隊」は第二次世界大戦の空襲で焼き出された被災者を対象に政府が募集したもの。応募者は荒地ばかりの北海道を開拓するように送り出された。石井さんは「多くの人が北海道開拓に貢献した事実を伝えたい」と本に込めた思いを話す。
現場の声届けたい
本は2017年にも同タイトルで自費出版したが、約400部と小規模なものだった。読者から「『拓北農兵隊』という聞き慣れないフレーズに引き付けられた」など、高い関心が寄せられたことで改編出版を決めた。「戦災者のエピソードを加え、より現場の声が届く内容にした」と話す。北海道の図書館などに足を運んで資料を収集。出版は定年まで勤めていた旬報社に相談し、協力を得た。本はA5判、239ページ。
空襲後 夕張へ
石井さんも拓北農兵隊で北海道に渡った一人だ。睦町に住んでいる時に横浜大空襲で焼き出された石井さん一家6人は1945年、北海道夕張郡長沼村に移住。当時5歳だった石井さんは年の離れた兄姉と農業に励んだ。1年間かけて荒れ地を耕した後、米、ジャガイモ、トウモロコシなどを栽培。周囲の大人が一から丁寧に教えてくれたので乗り越えられたという。「人間関係に悩んだ人もいる中、自分は本当に人に恵まれた」と振り返る。一家は53年に南区へ戻った。
平和考える契機に
読者からは、「平和のあり方を考えさせられた」といった感想が届いている。農兵隊として南区から移住し、現在も北海道で暮らす志茂敏郎さんは「移住して数年間は生きることで精一杯だった。この本は平和であり続けることがいかに大切かが分かる」と述べる。
戦時中の生々しい記憶が今でも脳裏に焼き付いている石井さん。「空襲で焼け野原となった横浜の姿は一生忘れない」という。8月上旬に発生し、複数の死者が出た米・オハイオ州の銃乱射事件を聞き、「平和の秩序を乱す」と眉をひそめる。「本を読んだ人が『平和』とは何かを考えるきっかけづくりになれば」と話す。
南区版のトップニュース最新6件
|
|
|
|
|
|
|
<PR>