書家で横浜商業学校(現・横浜商業高校)出身の高木三甫(さんぽ)さん(本名・勝郎、1904〜90)が書き上げた『万葉集』全20巻がこのほど、伊勢山皇大神宮=西区宮崎町=の創建150年記念事業の一環として奉納されることになった。4月29日まで桜木町で開かれている遺墨展で奉納前に一般公開されている。
文豪との交流も
三甫さんは中区花咲町で、耳鼻科医院の五男として生まれた。老松小、横浜商業学校を経て早稲田大学中退。父の勧めで書の道へ。著名な書家に師事した。1955年ごろ、西区平沼に移り、書道塾で子どもたちに習字を教えながら個展を開催。一方、詩人らと結成した書画の会「有路会」や武者小路実篤など、幅広い文人たちと交流を深めたという。
「偉業」の作品
万葉集に詠まれた人間の心情を書くことによってもう一度読み直したいという思いから、5年の歳月をかけ、73年に69歳で書き上げた。万葉集の約4500首を、原文の万葉仮名(漢字)とかな交じりの書き下し文の2通り書いているため、歌の数は2倍。それだけでも大変な作業だが、染色や金箔を施した料紙も自作し、巻物にするまで全て一人で仕上げたまさに「偉業」といえる作品だ。料紙の技術はホテルオークラ東京の大壁画などを手がけた縣治朗から学んだ。
時を経て縁の神社へ
長男の祥一さんによると、以前から万葉集の譲渡先を探していたが見つからなかった。今年に入って姉弟3人で話し合い、県内有数の書道用品専門店である桜木町駅そばの「ゴールデン文具」に持ち込んだところ、同社の平出揚治会長から伊勢山皇大神宮への奉納を提案されたという。実は祥一さんは囲碁九段の棋士。碁を通じて親交のある堀尾伸一さんが伊勢山皇大神宮の奉賛会の会長を務めていたこともあり、話が一気に進んだ。
さらに境内にある万葉歌碑を揮毫した犬養孝と三甫さんに交流があったこと、万葉集が出典元となった「令和」の時代に同神宮創建150年での寄贈が決まり、関係者は「深い縁を感じる」と口を揃える。
最後の一般公開
「高木三甫遺墨展」は、桜木町ぴおシティ3階のゴールデンギャラリーで開催中。これまで万葉集が公開されたのは、完成後と86歳の没後に行われた2回のみで、今回の展示は30年ぶり。おそらく最後の一般公開になるという。「肩肘張らず、奇をてらわず、素朴な中に本質極めた練磨の書。心和む作品が多い」と平出さん。会場ではほかの書画作品や原三溪の睡猫硯、武者小路実篤の書など文人書家の貴重な品が多数展示されている。入場無料。午前10時から午後5時まで。
問い合わせはゴールデン文具【電話】045・201・7118。
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