優れた技を持った名工を県が表彰する「神奈川県卓越技能者」が発表され、有限会社衣裳研究会=神大寺=の和裁士・鈴木勲吾(いさご)さん(47)が選ばれた。1枚の反物から着物を仕立てる和裁の世界に身を置いて約30年。鈴木さんは「一つ一つ積み重ねてきたものが無駄ではなかったことを改めて実感した。支えてくださったみなさんのおかげで受賞できたようなものです」と感慨深げだ。
鈴木さんは曾祖父の代から和裁をなりわいにする家系に生まれ、高校卒業後に香川県の原和裁研究所で5年間の修行を積んだ。全国から和裁士の卵が集まる中、男性は鈴木さんただ一人という環境で日夜和裁と向き合い、23歳の若さで最難関の1級和裁技能士資格を取得した。5年間で身につけた技術や心得は、今でも着物作りの素地になっているという。
祖父が起こした衣裳研究会の三代目として大手百貨店などを顧客に持ち、和裁の講師や技能五輪全国大会の主査を務めるなど後進の育成や着物文化の普及にも精力的に取り組む。和裁だけでなく着付けの腕も磨き、国家検定の着付け技能士1級資格を持つ。「私自身が着物を着せてあげられるようになることで、よりお客様の体形に合った着物作りができるようになる。飛び柄が思い通りの場所に入ったときの達成感は格別です」と、飽くなき探求心を胸に着物と向き合っている。
職人の世界に終わりなし
過去に父・栄治さんも選ばれた卓越技能者の称号を、親子二代にわたって手にした鈴木さん。「超えようと思っても超えられない存在。父には一生かないませんが、同じ賞をいただけたことはとても感慨深いですね」。そんな栄治さんが2016年に横浜文化賞を受賞したことは、鈴木さんにとっても意義のある出来事だった。「染めや織りと比べると、仕立ての世界は注目されにくかった。父の受賞により、仕立て屋の技術も文化なんだと認めてもえらえたことが本当にうれしかった」という。
30年にわたる和裁士としての経験にも、「この世界は一生勉強。終わりはありません」とおごらない。「指導者として日々学ばせてもらう中で、今でも新たな発見がある。和裁は着物作りの中で最終工程となる重要な仕事。いろいろな職人の手を経てきた反物を仕立てるという責任感を持ちながら、これからも一層精進していきたい」と言葉に力を込めた。
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