「絆が伝統をつなぐ」「努力が生んだ成長の一打」--。市立橘高校定時制軟式野球部の部活動新聞『橘定スポーツBaseBall』を7年間作り続けるのは、同部の監督を務める中島克己教諭(53)だ。これまでに380号以上を発行。「頑張っているのは、点を取る部員だけじゃない。野球部への様々な形での貢献をみんなで共有したくて」。部員の努力を日々、紙面に写し出す。
練習風景を中心に、校内イベントや試験勉強の様子など部員らの学校生活全体を取り上げる同新聞。A4サイズ両面で、ほぼ毎週発行。「大会など特別な日だけでなく、日々の小さな頑張りを何度も認める。それがありのままの自分や他人を認めることにつながるので、週刊発行にしている」と中島監督。7年前に同好会として始動した日のキャッチボールから部活動として承認された日、初の全国大会への歩みなどすべての歴史が記録されている。
取り上げるのは試合結果に寄与した部員だけでなく、汚れたボールをきれいに拭いたり丁寧にスコアをつける「縁の下の力持ち」も。試合出場経験の浅い2年生の横井華音さん(16)は「ベンチにいた私が一緒に勝利を喜んでいいのか、最初は不安だったけど新聞のおかげで部の役に立っていると実感できる」と笑顔で語る。
一号作るのにかかるのは数時間。編集作業は練習終わりの午後10時頃から深夜にかけて行うが、「好きでやっているから、大変だと思ったことはない」と中島監督。発行が少し遅れると部員から急かす声が上がることもあり、「心待ちにしてくれているのは本当にうれしい」と顔をほころばせる。
大会後は20ページにわたる特別号を作成。新聞のほかにも「俺たちの高校野球」と題したドキュメンタリー映画も年に一回手掛け、保護者を招いて上映会を開催。部員の一年間の成長を動画で振り返る機会を用意する。
中島監督が部活動新聞を作り始めたのは、市立高津高校定時制に勤めていた10年前。「定時制には人間関係や家庭環境に問題を抱え、自己肯定感が低い生徒が多い」と中島監督。努力を新聞に取り上げることで可視化し、自分や他人を認められるようにしようと発行を始めた。「自分が確かに成長していることに気づかせてあげたい。自分や周囲を大切に思うきっかけになるはず」と話す。3年の小森愛里さん(17)は「小さな変化にすぐ気づいてくれるので、悩むことが少なくなった。先生に出会えて、野球を始めて本当に良かった」と思いを込める。
8月に2度目の全国大会を控える同部。中島監督は「どんな結果になっても、きっと新聞には書ききれないほどの感動を残してくれる。『努力』を読み返し、自信をもって挑んでくれたら」と期待を込め、これからも筆を走らせる。
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