「復興願い 教訓生かす」 麻生区から見つめる“大震災”
東日本大震災の発生からあさってで1年が経つ。被災地から遠く離れた麻生区にも震災の余波は広がり、数多くの課題と教訓が突きつけられた。いつ起こるとも分からない震災に対し、麻生区全体の防災意識や復興への思いはどのように変化したのか。
「各町内会で避難ルートを歩いたり、炊き出しの準備をするなど震災時を想定した訓練に真剣に取り組む人が増えてきた」
塔之越自治会の自主防災組織本部長を務める堀繁一さんは話す。塔之越自治会は昨年11月、他町会に先駆け、避難所を中心とした10町会合同の訓練を行った。東日本大震災では、避難所の混乱が問題になった。「複数のコミュニティが一ヵ所に集まる避難所では、住民らがどのように連携やコミュニケーションをとっていくかが重要な課題となった」と堀さんは話す。
避難生活をする時の協力体制や連携などを確認した訓練は、住民同士の絆づくりにも役立った。
こうした取り組みに対し、麻生区役所地域振興課地域安全担当課長の杉山俊成さんは「日頃から横のつながりを意識した避難所中心の訓練を行うことで、助け合いの精神を持ってもらえれば」と話している。
災害弱者地域で守る
幼い子どもたちや災害弱者と呼ばれる高齢者や障がい者の避難についても問題が山積している。
麻生区役所こども支援室では来年度の完成を目標に、公立保育園との連携強化を目的にした災害マニュアルの作成に着手している。情報交換する際の担当職員を決め、正しい情報を把握し、提供する備えを整えている。さらに保育園や幼稚園、小中学校、子育て自主サークルなどで組織する「子育てネットワーク会議」でも震災を想定した初動対応を確認し、密な関係づくりを進めている。
独居や自治会に加入していない高齢者世帯の対策も盛んだ。柿生アルナ園地域包括支援センターでは近隣の介護事業所や民生委員、地域活性化グループなどが交流会を行い、対象世帯の情報を交換し、安否確認に役立てる。
広まる「備蓄」への意識
備蓄は地域防災拠点となる公立中学校で行っているほか、校舎の改築などで場所に余裕がある一部の公立小学校でも備えを始めた。また一部の公立小学校ではPTA独自に備蓄を開始。そのひとつ、東柿生小学校では来年度のPTAの予算で全校生徒分の水や食料を準備する動きがある。
「震災の記憶風化させるな」
各家庭や地域で有事に備える取り組みがすすむ一方、防災意識や被災地への支援活動は「風化」という新たな問題に直面している。
警察や消防などの関係機関と連携し、区が災害情報などを発信するセーフティーメール「ASM」(あすむ)の登録者数は震災前、ひと月116件(平成22年12月)ほどだったが、震災発生直後の昨年3月はひと月で1200件と登録者数がはねあがった。登録者数は昨夏まで増加傾向にあったが、今年1月の登録者数は42件にとどまっている(1月末現在)。
義援金について見てみると、麻生区社会福祉協議会がこれまで14回にわたり、被災地に送った義援金は152万1219円。うち7割以上は昨年9月までに集めたもので、それ以降は約半年間で40万円ほどだという。同関係者は「これが意識の薄れとは言いきれないが、私たちとしては引き続き皆様のご支援を御願いしたい」と呼びかける。
学生の支援活動顕著に
震災から1年が経過し、発生当初は全国各地から駆けつけたボランティアの数も徐々に減少している。そんな中、区内では学生たちの様々な支援が盛んだ。
区内にある田園調布学園大学の学生らは、仮設住宅で縁日を開くというユニークなボランティア活動に取り組んでいる。「仮設住宅には様々な地域から人が集められたと聞いている。コミュニティがないところで絆をつくるには、楽しいイベントがいいのではと思いついた」。学生らは出来る限りこうした活動を続けていく方針だという。
また、区内白山に校舎を構える日本映画大学では映像を通じた新たな支援が始まっている。卒業生が福島原発から20キロ圏内にある福島県南相馬市の避難の様子を撮影した映画の上映会を実施し、映像で被災地の現実を伝えようという取り組みを行った。この催しには約100人の区民が参加した。参加者からは「映像で実際に被災地の現実をみて、現地の様子が伝わってきた。支援の気持ちを改めてもとうと思った」などの声が寄せられている。
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