広島で76年前に被爆した上麻生在住の森政忠雄さん(87)の体験や語り部活動について、金程在住の児童文学作家・横田明子さん(64)が執筆した本が完成。6月1日から店頭に並ぶ。本を通じ「私が小学生で体験したことを、同じ年くらいの子どもたちに知ってもらい、命や平和について自分の体験にひきつけて考えてくれたら」と森政さんは話す。
『聞かせて、おじいちゃん―原爆の語り部・森政忠雄さんの決意』(国土社)は、小学校高学年から中学生向けに書かれた書籍。語り部として川崎市内外で講演し、市内の被爆者団体「川崎市折鶴の会」会長を務める森政さんの体験や講演で伝えている内容などがまとめられている。
1945年8月6日、森政さんは11歳のとき、広島市の中心部から3・7キロほど離れた郊外で被爆。悲惨な情景に心を痛め、原爆のことを人に話すことはなかった。
原爆投下から59年後の夏、自由研究のテーマを広島の原爆にした孫から、当時のことを話してほしいと頼まれた。このとき孫に初めて語ったことを契機に、森政さんは被爆者としての経験をライフワークとして伝えるようになった。
回覧板がきっかけ
著者の横田さんは5年ほど前、ノンフィクションを執筆したいと考え、身近なところから題材を探していた。ある時、回覧板に挟まっていた広報紙の、森政さんの活動紹介に目がとまり、興味をひかれた。
横田さんは「私自身は高度経済成長期に育ち、その前の戦争をほとんど意識しないできた。だからこそ、森政さんのように活動している人に興味が出たのかもしれない」と話す。横田さんは森政さんを取材し、文章を書き進めた。企画を売り込んだ出版社からも「売れる売れないにかかわらず出版すべき」とゴーサインが出た。
おじいちゃんが語る
講演を重ねる中で、森政さんは「ただつらい経験をしたではなく、なぜ戦争が起こり、どうして原爆が日本に投下されたのか」に焦点を当てて話すようになった。「特に子どもたちに知ってもらい、考えてほしい」という森政さんの思いをくみ、横田さんは今回の書籍を孫の視点で書いた。森政さんのことは「おじいちゃん」と表現する。「唯一の被爆国で今の子どもが、『自分だったら』と想像しやすいように。問いかけとして読んでほしい」と横田さんは思いを込める。
今年米寿を迎える森政さんには「もう講演できなくなる」と焦りもある。加えてコロナ禍で各地の講演や折り鶴の会の活動も止まってしまった。そんなタイミングで本が完成。「世代を超えて、みなさんに考えていただける機会になった」
横田さんの著作は書店やインターネット通販で購入可。
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