桜本商店街にある「桜文堂書店」の店主・小室保夫さんは、買い物客へのプレゼントとしてドングリのオブジェを制作し続けて約10年になる。「やめるにやめられなくなってしまったところもあるが、喜んでくれる人がいる限り、作り続けたい」と小室さんは語る。
小室さんは創業約80年の歴史を持つ同店の3代目店主。オブジェ作りのきっかけは10年ほど前。道端に落ちたドングリを眺める親子の姿を見かけ「最近の子はドングリで遊ばないのかな」と疑問に思ったことだった。幼少時代、ドングリを使ってこま回しなどで楽しんだ小室さんは「子ども達が喜ぶ何かができないか」と思いを巡らせ、ドングリの形がアニメキャラクター「トトロ」に似ていることに気が付いた。絵筆を取り、ドングリの表面に顔を描き、店内に飾ると、買い物客から「欲しい」との要望が相次いだ。以来、仕事の合間を見てはオブジェをこしらえるようになった。
ドングリは池上新田公園で拾い集めている。そんな取り組みが知られるようになり、5〜6年前からは小室さんのもとに、ドングリを届ける人も現れるようになった。「そんな人たちの期待にも応えなければ」と小室さんは作り続けているのだという。
何気なしに制作しているオブジェだが、その日の体調や気分によって表情が変わる。「気分が乗っているときに作り上げたものは、目が大きくなって何となく愛想がいい。感情が乗り移って出てくるんだね」。オブジェも進化を重ね、今年は1センチ×5センチに切ったボール紙に、ドングリ2個、そして初めて枝を取り付けてみた。「木を入れただけで締まった作品になった」と評判で小室さんは9月下旬から10月にかけてすでに約150個制作したという。
「家にもドングリオブジェが置いてあるわよ」。これまで会ったことのない人からも声をかけられるようにもなった。作り方を教えてほしいとの依頼もある。インターネットの普及で、書店を取り巻く環境は近年厳しさを増し、買い物客と接する機会は減少。同商店街で毎年11月に開かれている一大イベント「日本のまつり」も昨年からコロナ禍で中止を余儀なくされている。まちの賑わいが失われていくことに小室さんは危機感を募らせる。地域住民とのちょっとした交流ツールとなるドングリオブジェ。「コロナが収束すれば、商店街の祭りでも活用したい」と語る。
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