帆掛け舟 ついに復元 新磯「新」シンボル 6月お披露目
明治から昭和初期まで、物資を運搬するため相模川で航行していた「帆掛け舟」。かつての生活道具などの収集・保存に努めている団体「市磯部民俗資料保存会」(南区磯部/田所輝夫会長)では、一昨年から、この舟の復元を試み、このほど2艘(そう)が無事、完成を迎えた。特別に発注していた木製の帆柱も5月中には出来上がる見込み。長さ8m、最大幅1m40cmの立派な船体が、この6月にも一般に公開される。
「まさか、大工が見つかって、新しい舟作りができるなんて夢にも思わなかった」。磯部の川沿いで育った会員のこの男性(70代)にとって木舟は、いつしか若い頃の原風景の中だけのものとなった。かつて、帆掛け舟は重要な水運として活躍。しかし戦後は小型の釣り舟などが川面を賑わせ、自然とその役割を終えた。
保存会では約30年前に一度帆掛け舟を復元=左下写真。しかし、それは川釣り用のコンパクトな木舟。現在は老朽化が目立ち、会員から「新しいものを作りたい」という声もあがってきていた。ところが作り手がいない。「相模原周辺にいる舟大工は廃業したと聞いていた」と一度は、新船を保存会では諦めた。
しかし一昨年の秋、状況は一転。保存会・会員の知人が、「趣味でこれまで20艘ほど木の舟を制作したことがある」とわかった。その知人とは大工の田所武久(たけひさ)さん(相模台)。15年ほど制作を止めていたが、保存会メンバーの熱心な説得もあって今回、復元を挑戦することに。昨秋、緑区青野原の杉(丸太3本)を舟型に削りはじめた。500本近い釘は市販のものは使わず一つ一つ手作り。当初一艘のみの予定だったが、材料に余裕があったこともあり、もう一艘作ることに。このほど、きれいな木目の”新シンボル”が完成した。
「猛暑の日でも、水の上っていうのは、本当に涼しいんだよ。気持ちのいい一時を過ごすことができるね」と、地元で育った60代の関係者は話す。戦後、この新磯や中央区田名地区の相模川沿いには、いくつか料亭があった。磯部の「梅よし」もそのひとつ。東京からの、ちょっとした観光スポットになっていた。
訪れる人のお目当ての一つが、「遊船会」=右写真。川に木舟を浮かべ、釣れたての鮎を焼いて一杯。同乗の芸者が酌をしてくれるという優雅な遊びだった。「いい避暑の過ごし方だったんだろうね。自分たちの幼い頃は、そんな光景がよくあったね」。梅よしは三段の滝のそばにあったが、新磯橋の改修と共に、姿を消してしまったという。
船上でお酒は飲めないが、この夏には真新しい舟が、涼しき水面へ来訪者を誘う。恒例の帆掛け船の乗船イベントは、8月上旬に予定されている。
なお、保存会では6月にこの新船のお披露目を行う計画(進水式)。問い合わせは、【電話】046・251・6633(田所会長)へ。
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