「橋本に住んでいた頃、通っていた城山の幼児館が自然教室を行っていて。そこで初めてカヌーに乗ったんです」
昨年10月に東京・葛西で行われたNHK杯国際カヌースラローム競技大会。男子カヤックシングルで4位に入り、東京五輪代表を決めた足立和也さん(29)は競技との出会いを振り返る。
年代別の日本代表に選出されるなど順調に成績を残し、カヌーの名門・駿河台大学に進学。3年の時、初めてワールドカップに出場するも世界の壁を痛感した。競技に専念するため大学を中退し、山口県に住む日本代表時代の恩師・市場大樹コーチを頼った。
山口県では市場コーチの家に居候し、アルバイトもしながら練習に明け暮れた。環境も変え、全てを投げ打って目指したのは2016年のリオ五輪。あと少しで届く、その実感もあった。しかし、代表選考を兼ねた15年のロンドン世界選手権で結果を残せず、大会後は頭が真っ白に。どうやって帰国したかも分らなかった。この先、どうしようか―、考えようと思っても頭が拒否した。
時間をかけて自分の心と向き合った結果、「世界で一番になりたい」思いは不変だった。「4年間は長いけど短い」、再びスイッチが入った。
つらい時期を支えてくれた奥様と16年に結婚。2年前に娘さんも生まれた。NHK杯には山口県から2人が観戦に。その最愛の家族の前で決めた五輪代表。奥様は泣いたが自身に涙はなかった。「確かに嬉しかったけど、泣くのはここじゃない。まだスタートラインに立っただけだから」
カヌーは状況判断の早さなど経験が占める割合が大きい。年齢を重ね、さらなる高みを目指せると信じている。これまでの経験全てが支え。「4年前の自分より、今の自分の方が絶対に強い」。力強く言い切る。
今夏の東京五輪。「カヌーはルールも簡単で、観ていて楽しい競技。ぜひ市民の皆さんも注目してほしい」と語る。さらに「その中から一人でもカヌーを始める人が出てくれたら何よりも嬉しい」と笑顔を見せた。