新型コロナウイルス感染症をきっかけに、地域の商業施設はどのような対応に追われているのか。模索しながら奮闘する「人」を紹介する。第1回は、市内唯一の映画館・MOVIX橋本(運営/株式会社松竹マルチプレックスシアターズ)の座間貴久支配人に話を聞いた。
3密クリア しかしジレンマ
同館が最初に対応を迫られたのは3月末。市から休業要請を受け、まず土日祝の上映を取りやめに。4月7日の緊急事態宣言後は全面休館を余儀なくされた。3月に入ってからの客足は、例年比で半分以下。春先やゴールデンウィークはお盆に次ぐ繁忙期だっただけに、その打撃は大きかった。東日本大震災の際も影響は甚大だったが、被災地以外の他のMOVIXでは上映できていた。それが今回は全国規模。新作も軒並み延期。従業員の感染リスクも考えなければならない。非常に悩ましい事態だった。
観覧者減らし上映回数増やす
同館が加盟する全国興行生活衛生同業組合連合会からは、前後左右の席を空け観覧者数を50%削減することを再開館の条件として挙げられた。これを成し遂げるため、400人定員のシアターで1日5〜6回上映していた作品を、200人に減らし複数のシアター上映時間をずらしながら倍の回数稼働させる。トータルの動員数は変えず、「見られない観客を出さない」運営を6月1日から試みている。手間ではないのかと尋ねると、「まったく手間ではない」と即答する。「適切な対策を講じて、来館者に安心してご来館いただきたいだけ」と座間支配人。密閉・密集・密接の「3密」をクリアするため、1時間に2〜3回の換気(密閉回避)、観覧者数50%削減(密集回避)、密接は「映画館はもともと静かに映画を見るところ。これで3密回避。しかし、それでも来館を積極的に呼び掛けられない」というジレンマがつきまとう。
映画館に映画を見に行く、という文化は今後どうなるのだろうか。このコロナ禍で新作がインターネット上で有料配信される例も現れ、わざわざ映画館に赴く意味が霞んでいる。「個人的には、有料配信も一つの流れだと思う」(座間支配人)。しかし、大型スクリーンや迫力のある音響。誰かと観に行って、上映後に感想を話し合うこと。それは「絶対に映画館でしか出来ない体験」と自然に熱がこもる。DVDや定額制動画配信サービスの台頭の裏で、何度も逆波を乗り越えてきた映画館文化。再開館に合わせ来場した客からの「おめでとう」「また来ますね」がそれを象徴しているようだ。