宮司の徒然 其の1 町田天満宮 宮司 池田泉
鈴虫に思うこと
鈴虫のオスの透き通る羽根が美しい音色を奏でる。意中のメスを射止めようと、誰かが鳴きだすと負けじとみんなが鳴きだすから大合唱になり、フッと鳴き止んで4〜5秒でまた大合唱。
鈴虫は射止めたいメスにお尻を向けて鳴く。自慢の音色と共に羽根の付け根からフェロモンを放出するという。立派な体格のメスに比べて、鳴くために羽根を立てている時のオスは貧弱。
そして数日鳴き続けると自慢の羽根は傷ついて、音色にカシャカシャと擦れる音が混じるようになり、それでも鳴き続けて最後には音も出なくなる。
卵を産むメスのために、動物性の煮干し粉や切りイカをいくらあげても、毎日毎日、オスはメスに食べられていく。
オスは必死に鳴いたあげくに思いを遂げると、自らを動物性タンパクとして捧げる。目的はただひたすらに自分の遺伝子を有する子孫を残すため。
だから、やかましいほどの大合唱も少しずつ音色が少なくなって、最後は独唱になって、それもなくなると…、丸々と太ったメスだけになる。それが望む結末だから、それでいいのだけれど…。なんか悲しい…、同じオスとして。
それからメスは産卵作業。少しずつ移動してはお尻の真ん中の長い針をほぼ直角に地面に差し込んでタイ米に似た形の卵を一つずつ産み付けていく。
そしてメスも疲れ切って息絶える。飼育箱に残った羽根や足の残骸を片付けて、乾燥させないようにして一冬越すと、また5月には蟻より小さな命が生まれてくる。
生物の本能は
この命の営みを繰り返す虫。音を楽しむことだけが目的だったのに、命についていろいろ考えさせられている自分。植物や虫が繰り返すひたむきな営みを人間は忘れてしまったのか。人間という同族なのに殺し合う愚かさ。戦争に使う莫大なお金があるのなら、危機的な地球を救うために使えないのか。自然災害の復旧に使えないのか。そんな単純なことではないとわかっていても、全ての生物が持つ本能は単純明快なのだから…。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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