町田版 掲載号:2017年1月26日号 エリアトップへ

宮司の徒然 其の22 町田天満宮 宮司 池田泉

掲載号:2017年1月26日号

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葛の花と葛の葉を食草するオジロアシナガゾウムシ=写真下
葛の花と葛の葉を食草するオジロアシナガゾウムシ=写真下

吉野葛

 最近、春日大社が何らかの意図でクローズアップされているようだ。春日大社と言えば奈良県。法隆寺、東大寺、藤ノ木古墳、キトラ古墳、石舞台、奈良公園、唐招提寺、大神神社など歴史的に有名な寺社や遺跡が多い。一方で高速道路や新幹線が通っていないこと、観光地が広範囲に散在していること、大きな宿泊施設がないことなどにより、お隣の京都に観光客を奪われている感は否めない。また、奈良県民がお国自慢に消極的なところも有名で、「田舎だから来なくていい」という県民が少なくない。くまなく行ってみないとわからないが、私は名所の多い魅力的な県だと思っている。



 奈良には吉野葛という名産がある。私は今まで吉野葛を小ばかにしていた。和菓子をあまり食べないということもあるのだが、そもそもクズという植物は本州の至るところに繁茂し、放置すればフェンスや大木を覆うほどになる厄介者だ。だからその根を掘り出して潰して絞って澱粉を採り出すなどという手間のかかる作業をする土地は、他に産業のない貧しい土地なのだと決めつけていた。たまたま昔から作っていたから有名になっただけで、葛粉はどこでも作れるただの澱粉なんだと。



 ところが、よくよく調べてみたら吉野葛が有名になった理由が見えた。そもそも澱粉自体がそれぞれに違った。片栗粉という商品名がメジャーだが、元来カタクリという可憐な植物の根から作られたから片栗粉と呼ばれているが、現在カタクリは絶滅も危惧されていて、公園では専ら柵に囲まれて保護されている。ほとんどがサツマイモ(甘藷澱粉)やジャガイモ(馬鈴薯澱粉)で、これらやコーンスターチで葛餅や葛湯を作っても美味しくはない。顕微鏡で見ればその違いは歴然だ。確かに葛という植物は全国同じだか、成長する地質は勿論のこと、何よりも適した水で作ることで風味や舌ざわりが大きく違ってくる。吉野の水は不純物が少なく、さらにミネラルと呼ばれる亜鉛・カリウム・カルシウム・ナトリウム・マグネシウム・マンガンなども少ない。精製する過程でこれらが影響して澱粉の性質が変わってくるから、吉野の水はミネラルウォーターには向かなくても葛粉を作るのには適していたわけだ。もっとも、私が葛を使った菓子や葛湯を好んで食べていたなら、もっと早く風味やなめらかさの違いがわかっていたかもしれない。私はべつに吉野葛を宣伝するつもりはなく、浅い考えだった自分の反省をしているだけだ。純粋な吉野葛は生産量も限られているからそれなりに高価で、表記基準もないため、吉野葛と表記されていても、よく読むと馬鈴薯澱粉などが添加されていることも多い。とにかく、奈良の吉野葛にもしっかりとした歴史の重みがあることは判明した。

 ただし葛の繁殖力はすごい。この辺りの公園も駆除しきれていないが、葛の葉を食草としているオジロアシナガゾウムシもいるし、大きめの花を見て毎年楽しんでいる私もいる。ちょうど藤の花を逆さまにした感じだから、駄洒落で逆さフジと呼んでいる。



 町田には残念ながら歴史ある名物や名産が見当たらない。無理矢理作ろうとあれこれ模索している。もともと無いのが歴史なのだからそれで良いのではないだろうか。何もなくても住みやすい安全な町にすることができれば、それは有名観光地や名産品をも凌ぐ市の自慢の逸品だと思う。ゾウムシにとってどこにでもある葛の藪が安住の場所であるように。
 

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