宮司の徒然 其の27 町田天満宮 宮司 池田泉
「外来種の線引き」
今年は5月から真夏日が多く、6月にもなるとそろそろ庭の草刈りに諦め感が出てくる。それでも今年はドクダミ茶にチャレンジしようと決め、ただの草取りではなく収穫という気分に切り替えられたから少しはましだった。最近の草は種類が変わってきている。従来のカキドオシ、カラスノエンドウ(写真上右)、メヒシバ、オヒシバ、キランソウなどに加え、爆発的に増えているのは、赤花夕化粧(写真上左)、セイタカアワダチソウ、アメリカチチコグサモドキ、ヒメカミツレ、アメリカフウロ(写真上中)など。この新入りたちの特徴は過酷な環境でも繁殖できること。これは西洋タンポポをはじめとする外来種の特徴でもある。ミドリガメと呼ばれるアカミミガメの繁殖力に在来のツチガメが負けつつあるのと同様に、植物も勢力図の変化が進んでいる。国土全体、地球全体に置き換えれば、環境の変化に応じて動植物がせめぎ合うのは、太古から行われてきた自然の大きな営みであり、生活環境の向上や利便性を追求し、ここ数百年で劇的に地球環境を変えてしまったのは我々人間であって、外来種だとか外来危険生物などと呼ばれてしまう生き物たちは言うなれば被害者だ。
そもそも、外来種とは人間が勝手に決めた枠の区分で成立している。地域、島、大陸あればこそ中と外という区別が生まれる。日本国内の地域にしても、動植物は気候変動で移動や撤退をするのに、加えて流通という人為的なものも要因になる。例えば、菫を食草とするツマグロヒョウモンは、産卵したパンジーの鉢が全国へ輸送されて、元来九州にしかいなかったのに温暖化によって関東でも繁殖できるようになっている。また、町田市内でも稀に見られるアカボシマダラという蝶は、中国からマニアが持ち込んだとされていて、幼虫の旺盛な食欲が在来種の蝶の食を脅かしている。タテハチョウ科なのにマダラチョウに擬態していて、しかも、春型や秋型で白かったり揚羽蝶のようだったりと、時期によって成虫の色が別物になるため見つけづらいという厄介者だ(写真下左が夏秋型、同右が春型)。在来のマダラチョウが勢力を弱められているため外来危険生物に指定されていて、見つけたら駆除の対象。ただし、綺麗だから心を鬼にできない私も、それを助長しているのかも(汗)。
日本の虫や植物は歴史上の線引きをしなければ、ほとんどが外来種と言えないこともない。人間以外の動植物には区切りなどはない。渡れれば渡る。イノシシも島から島へ泳ぐ。蝶も数千キロ旅をする。最近千葉や大島にキョンが増えて農作物が被害に遭っているという。国内に野生はいないと思っていたから驚いたが、小さな鹿だからおそらく人間が持ち込んだか、飼育されていたものが逃げたのだろう。ヌートリアやブラックバスのように後悔する前に何とかしたいものだが、小柄で捕獲が難しく、いずれ関東一円に広がるのだろうか。
石器時代に遡って考えれば、日本人でさえモンゴル系、ロシア系、東南アジア系、中国系と様々な民族のミックスでできあがっていて、どの時代からが日本民族だという明確な線引きはない。ただし島国だからこそ中世以降の過剰な流入は留められてきた。これが大陸とくっついていたなら、温暖で緑の多い日本への移民は相当多かっただろう。とりあえず我々は移民の末裔、良く言っても移民と先住民のミックス。そして現在、日本には可愛いハーフやクォーターの子どもが増えている。もはや自然で何の抵抗もない。ましてや学校で共に学ぶ子どもたちにはごく当たり前の時代。素敵な国になれば良い。
米国の新大統領が移民禁止を掲げている。しかし、やはり時代を遡ればアメリカにはインディアンと呼ばれた先住民を押しのけて、大量の移民が入って成立した国。移民禁止ではなく「移民中止」もしくは「移民打ち止め」の方が正しい表現ではないだろうか。自分たちも移民の末裔であるという自覚はあるはず。
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