町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の40
大ばら
昨年、相模の大山へ豆腐料理をいただきに出かけた。大山は江戸時代から信仰の山として関東一円に大山へ参詣登山に行くための大山講があった。関東一円から富士山よりも大山の方がそびえて見え、山には修験道の寺社が100以上あったことから、殊に江戸庶民にとっては富士講と肩を並べるほど人気があったのが大山講だ。当時は今のような交通機関は皆無であるから、当然何日もかけて徒歩で行く。資金もかなりかかる。伊勢講や富士講同様に誰しもが気軽に行けるわけではないので、村人がお金を出し合うなどして輪番制やくじ引きで代表者を決めたりもしていたという。道案内は大山の御師(おし)とか先達(せんだつ)・先導師と呼ばれる人が村にやってきて呼びかけ、つまりツアーを組む。当時のことであるから大勢で向かわないと危険ということもある。そして大山に到着して宿泊するのは、案内人の営む宿坊である。明治初頭に御師職は廃止されたが、現在でも大山参詣の旅人の宿として、また名物の豆腐料理フルコースを提供する食事処として、元御師の宿はたくさん残っている。
さて、訪れた旅館風の食事処では豆腐料理はもちろん、周辺の山野で採れた野草の天ぷらなども並んだ。天ぷらの中に異彩を放つ大きくて緑豊かな一品があった。店主に尋ねると「大ばら」だと言う。「ということはハリギリですか?」と聞くと、「そうとも呼ぶらしいです」と答えた店主に、いや大ばらの方が地方名なんだから、正式名を「そうとも呼ぶ」はおかしいのでは?と言いたかったがやめた。その土地の人にとって、何が何でも正しいのが土地の呼び方なのだから。
ハリギリはウコギ科の落葉高木で25m以上に達する大木もまれにあるが、近づくことも怖いくらいの大きなとげが15cmくらいの幼木の頃から幹に生えている。多くの人々が憩う都市型自然公園では1mにも満たないうちに刈り取られてしまう運命。私が知る限り、小山田緑地公園の北西の林内に20mくらいの大木が2本。めったに人が入らない場所だから伐採を免れてきたのだろう。また、同公園内の散策路にもっと大きいのがある。ハリギリは老木になると根本付近のとげがなくなり、見上げないとハリギリとわからなくなる。おそらくその老木は公園ができた頃からすでに巨木で、手の届く所にとげがないから伐採されずに済んだのだろう。芹が谷公園には発芽して間もない10cmほどのハリギリがたくさんあるが、ほとんどが大きくなれないまま伐られてしまう。しかし、実をつけるような大木がないのに毎年たくさんの苗木が見られるのはどうしてか。それがウコギ科の戦略。おいしい実を食べた鳥たちが糞と共に大量の種まきをしてくれるからだ。
ハリギリは家具材などにも「栓の木」として用いられている。樹皮は薬になり、ヤツデのような実には塩分も含まれ、鳥たちに大人気のようだ。そして何よりも春の新芽は(私的には)タラノメよりおいしい。タラノメよりアクが強いために流通はしてこなかったが、春を味わうにはもってこいの食材だ。ただし採取するときは注意が必要。うっかりすると指に穴が開く。ヒイラギなどもそうだが、大木になると上の方の葉にとげがなくなって丸くなっている。幼木のうちは身を守るためにとげをつけ、立派な幹になればとげは不要になる。親や社会がレールを敷き、守り抜いて育てたら、大きくなっても立派な幹と言えるのかどうか。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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宮司の徒然 其の135町田天満宮 宮司 池田泉11月30日 |