町田版 掲載号:2018年6月7日号
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町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の41

花の思い

 今年の桜フィーバーは例年より早かった。全国にある数十万本の染井吉野は、種(しゅ)を守るために挿し木や取り木で増やした兄弟、いや言うなればクローンだ。もともと染井吉野は1本が始まりで、人の手によって日本全国、いや他国にも寄贈されているくらい数を増やした。クローンだからこそ日本の気象予報木としても最適だという利点もある。そもそも桜の寿命は50年から60年。行き届いたケアをしても100年余り。虫媒花だから種はできるがクローン同士の受粉はせず他種の桜から受粉する。低確率ながら発芽も稀にあるが、ただしその苗は純粋な染井吉野ではなく、染井吉野と他の桜のミックスということになる。一方で、染井吉野も他種の桜に花粉をたくさん飛ばして、自分の遺伝子を広げようという営みを続けているのは救いだ。仮に接木や取り木をやめてしまったなら、樹齢も考えると純粋な染井吉野は100年ほどで消滅することになり、日本から桜前線という言葉も昔話になる。私はそれが自然の摂理に戻ることだと思うが、年中行事としてここまで大切になってしまった以上、日本人はそれを許さないのだろう。人間中心の社会の中では、クローンとして人々を楽しませながら生き長らえることを選択するしかないのだから、わびしい気もするが応援もしたい。

 春、タネツケバナに少し遅れてオオイヌノフグリ(写真中)が可愛らしい花を咲かせる。フグリとは陰嚢のことで、つまり睾丸を包む袋。種が犬の袋に似ていることからこの名が付けられたが、臭いからといってヘクソカズラ(写真下)とか臭木(クサギ)とか、人間の命名は少々乱暴だ。さて、オオイヌノフグリの青い花は地面に張り付いている草に紛れても目立つ鮮やかな青だ。一方で、大型の植物には青い花は思い当たらない。せいぜい大きくてもネモフィラやローズマリー程度。つまり虫媒花は目立たなければならないのだから、地面に張り付くような草にこそ意味があり、背丈のある植物の花が青いと空と同化してしまうから意味がない。生存、繁殖という目的があればこその進化の結果だ。ところが最近、某大学研究チームが遺伝子組み換えによって青いバラを作り出したらしい。

 歌手の松田聖子さんの「赤いスイトピー」が大ヒットした当時、赤いスイトピーは着色されたもの以外実在していなかった。その後品種改良により20年近く経過してから赤いスイトピーができたという。さらに黄色いスイトピーも同様に、薄めた食紅を白いスイトピーの切り花に吸わせることで黄色くしていた。スイトピーには黄色い要素の遺伝子がないから不可能かと思っていたが、遺伝子組み換えが乱発されれば近いうちにできてしまうのかもしれない。

 何千年もの時間をかけて、確固たる目的と理由があって進化してきた植物を食用ならまだしも、観賞するためだけに手を加えてしまってよいものか。クローンや遺伝子組み換えの議論の中で、本能や命の目的という原点だけは、どうかないがしろにしないでほしい。
 

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