町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の61
共 存
今年の冬もロウバイ(蝋梅)が花の少ない季節をつないだ。ロウバイは小寒から節分までの時期を示す季語にもなっているほど日本の生活・文化になじんでいるが、その種類のほとんどは中国から渡ってきている。蝋のような鈍い艶の花弁であることと、十二月の別名「蝋月」に咲くことからロウバイと名付けられた。十二月を臘月と呼ぶのも中国に発するもので、十二月に若者が猟をして捕えた獣を供えて祭を行うことから、「猟」が「臘」に転じて「臘月」とされた。梅と付いているのは日本らしさで、鯛ではない魚に○○鯛と名付けてしまうのと同様と思われる。ロウバイはクスノキの仲間で梅はバラ科だから近縁ではない。花が親しまれているロウバイだが、その果実(偽果)は花とは似つかわしくない形と大きさで、やがて枯れて黒っぽく乾き、中に小豆より少し小さい種を10個ほど作る。その頃には中に空洞部分が多くなり、かなりの確率である虫がすみ着く。
その虫とはアリグモ。写真のブレでもわかるように動きがアリのように速くて静止してくれないから、じっと観察しないとクモだとは分からないが、アリよりも脚が1対多い。出合うことが少ないからペアリングしている場面は見たことがないが、群れることはなく大抵単独行動で何を食べているのかもわからない。かつてはアリに擬態することで、近づいてきたアリを捕食すると考えられていたらしいが、観察しているとアリの集団には近づかないし、むしろ逃げているようだ。おそらく、アリの獲物となる虫を威嚇するための擬態なのだろう。見分ける良い方法として、机の縁などを歩いているときに指で押して落としてみると、アリにはできない芸当をする。そう、とっさに糸を出してぶら下がり落下しない。
このアリグモ、ロウバイの果実の空洞を間借りしてすみ着く。たった一人で寂しいかとも思うが、やがては伴侶を迎え入れるスイートホームなのかもしれない。ロウバイは種が作れればそれで良し。アリグモがすみ着いても問題はない。アリグモにとっては雨風を防げる丈夫なシェルターだ。ロウバイには葉を食べる幼虫がいて、もしかしたらそれらがアリグモの獲物なのかもしれない。謎多きクモだ。
ロウバイのみならず、長い歴史の中で中国無くしては日本の文化はあり得ないほど、わが国の成り立ちに中国は影響している。特に言語や漢字の源であるし、また流入した植物は大半が大陸から。寺社の建築様式や植物は日本固有のものはごくわずかだ。謎多きアリグモも中国から渡ってきたロウバイの果実の中をすみかとして巧みに利用している。国際的非難を浴びる中国政府の様々なやり方や、マナーに欠ける一部の中国人旅行者など、憤る点は多々あるにせよ、日本の技術でしか作れない部品を中国が買い、組み立てた完成品をアメリカに売っているし、国内大手メーカーが人件費の安い中国で製品を作って日本で販売している。生活雑貨・衣料品などメイド・イン・チャイナだらけなのがごく普通である。つまりもろもろが明らかに共存関係であるし、今の日本の観光産業を支えているのは中国人旅行者であることも否めない事実。この年末年始、新型コロナウイルスで大騒ぎだが、様々な憤りがあるにもかかわらず、武漢からの帰国希望者を乗せるチャーター機は、大量の救援物資を満載して飛び立ち、日本の医療機関をはじめ各所からも救援物資が中国へ送られている。日本国内の災害のたびに中国から支援の手が差し伸べられたことを日本人は忘れない。お互いに苦しんでいる者がいれば助ける精神。対日感情、対中感情を利用する政府同士の小競り合いなどに振り回されない冷静な庶民レベルでは、人間として助け合う気持ちが根っこにあって、それが足かせなく表せていることは救いだ。ロウバイを愛でつつ、これ以上死者が増えないことを祈ろう。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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