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掲載号:2020年10月22日号

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木犀の悲哀

 金木犀(キンモクセイ)が秋風に甘くて強い芳香を乗せる。台風の冷たい雨で足元にはもうオレンジ色のじゅうたんが敷かれている。花は小さいが花弁はふっくらと丸く、なんとも優しい形だ。中国では花を乾燥させて花茶にしたり料理にも用いたりするが、日本ではほとんど利用せずもっぱら香りを楽しむ。というのも、日本ではかつて水洗トイレではなかった時代に、臭いを紛らわすためにトイレの近くに植えられたため、高齢層にとっては金木犀の香り=トイレの匂いというイメージが強く、香水や芳香剤の分野でも当初の評価は低かったが、最近はそのイメージも薄れてきているようだ。

 そもそも「犀」という字は動物のサイのことで、樹皮がサイの足の肌に似ていると考えられて名付けられた。またオレンジ色の花をつける木犀の品種は白花の銀木犀(ギンモクセイ)の変異種だが、白を銀とし黄色やオレンジ色を金とするのは日本の文化にもあり、祝いの折り詰めに卵焼きと白いカマボコを入れるのも金銀に見立てたもののようだ。植物にもキンランとギンラン、ギンネム、キンロウバイ、キンミズヒキなど白と黄色はやたらと金銀になって名付けられている。さて、そもそも木犀が中国から日本へ持ち込まれたのは江戸時代。金木犀は和名であるから「犀」の文字を使ったのは、江戸時代の名付け親がアフリカのサイを知っていたということか。なぜ象ではなかったのか。チコちゃんにでも尋ねるか。

 中国から持ち込まれた時、おそらく花付きの良い株をうきうきと持ってきたのだろう。それは雄株。木犀は雌雄異株で雌株は花付きが極端に少ない。こうして持ち込まれた雄株は種はできなくとも挿し木で容易に増やすことができ、瞬く間に全土(北海道、沖縄を除く)に広がったが、雌株がないため自然繁殖はない。種を作っても発芽せず、クローンで増やされているソメイヨシノと似ている。ただし中国でも日本でも木犀には変種が多いから、そのうち違う色のが現れたり、種ができたりするのかも。

 トイレのイメージ、樹皮がサイ、そして日本にはオスだけ。なんともかわいそうではないか。花粉をいくら飛ばしても受け取ってくれる彼女が日本にはいないなんて。それでも香りは日本人の生活圏に身近で親しまれているし、生垣や庭木としては常緑で虫にも割と強く成長も早い。日本でたくましく生き、ごく当たり前に好まれている。コロナで足踏みしているグローバル化も、平常な生活を取り戻したら加速を始めるだろう。それが自然で、植物同様に海を渡りミックスされていく。肌の色の差別なんて、「そんな時代があった」と歴史の教科書に載る未来がきっと来る。木犀の雌株もいずれやって来る。さらに変異している雌株かもしれないが、きっとそれなりに強く素敵になっているはず。
 

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