3月に完成した座間市教育史の調査・編集を務めた 大谷之彦(ゆきひこ)さん 緑ケ丘在勤 79歳
先人の想い、ひも解き綴る
○…町中にある小さな石碑や、人為的に掘られたと思しき大きな溝――。多くの人が何気なく見過ごす風景の中に、地域の歴史をひも解くヒントを見つける。「そこに先祖からの繋がりを感じることができるのが、郷土史の魅力」。様々な場所に行き、資料を読み込んで痕跡を追ううちに、そこに暮らした先人たちのはつらつとした姿や、しょぼくれた表情が目に浮かぶ。市の文化財調査に携わり36年。未だに壁にぶつかることも多いが、「やっぱり、楽しいね」と相好を崩す。
○…東京都に生まれ、戦時中の中野で少年期を過ごした。終戦を迎えたのは、小学5年生の8月。これまでの「常識」が、一夜にして崩れ去った。「教科書には墨を引かされて。整った学習環境とはとても言い難かった」。幼い頃から歴史好きで、一度は歴史学者を志したが「せめて下の世代には、整った環境で心行くまで勉強をさせてあげたい」。そんな気持ちから社会科の教師を選んだ。「当時の座間の小学生たちは、とにかく熱心で。木造校舎の床はいつもピカピカで、覗くと顔が映り込んだ」
○…転機は、座間市制が制定された1971年。小学生向けの副読本「わたしたちの座間」の編集責任者に抜擢。郷土の歴史を調べ上げ、子ども向けにまとめ上げた。その時の縁で、78年に市文化財調査委員に任命され、教職をこなしながら長期休暇返上で働いた。定年後、市教育研究所教育史調査員に非常勤特別職として採用された。
○…3月に、13年の歳月を費やした「座間市教育史」の第1巻が、ようやく完成した。かつて「気品ある教育尊重の町」と呼ばれたそのルーツを辿り、1冊にまとめた。「年々、資料となる石碑や文献は失われる。でも、それらの資料は読み取り方によって無限の可能性を見せる。それらを市の書籍として残すのが、私の役目」。先人たちに思いを馳せ、座間の歴史を地道にひも解いていく。
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