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座間版 公開:2015年7月31日 エリアトップへ

シリーズ 戦後70年 語り継ぐ「記録と記憶」

社会

公開:2015年7月31日

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妻・榮子さんとともに被爆者の文集を読み返す治実さん
妻・榮子さんとともに被爆者の文集を読み返す治実さん

第7回 60余年 心にしまい続けた「原爆の日」
 

 1945年8月6日。広島市上空に落とされた1発の原爆に、運命を捻じ曲げられた男性がいる。野上治実(はるみ)さん(85・東原)、当時15歳。原爆に父を奪われ、出産を控えた母とまだ幼い弟を抱えて奔走。一家を守れるのは自分だけだった。

 70年が経過した今でも、当時の話をすると恐怖がよみがえる。同県・呉出身の妻、榮子さんとは56年連れ添った仲だが、半世紀以上、互いにその日のことを語ろうとはしなかった。

 そんな治実さんが、重い口を開いたのは今から5年前。当時大学生の孫から、「戦時中の体験を聞きたい」と言われたのがきっかけだった。実際に言葉にすることに抵抗はあったが、それよりも孫から話を聞きたいと言われた嬉しさが勝った。孫が、祖父の戦争体験をまとめた1冊のレポートは、夫婦の宝物となった。

 記者が70年前のことを聞くと、野上さんは、伏し目がちにゆっくりと口を開いた。「その時私は、旧制中学校の4年生で。学徒動員のため、爆心地から4キロほど離れた江波の三菱造船所にいました」

 大きな軍港があった呉などとは違い、広島市の中心部は戦時中もほとんど空爆がなかった。敵機がたまにやってくるものの、多くの人は「呉の方に行く途中かな」といった認識だったという。

 その日は、夏らしくよく晴れていた。江波にある学徒動員先で、いつもと変わらぬ風景を窓越しに眺めていた、その時。突然、強い閃光が一面を包んだ。野上さんは訓練を思い出してとっさに机の下に潜り込み、目と耳を手でふさいだ。その瞬間。つんざくような激しい轟音とともに窓ガラスが吹き飛び、同時にすさまじい衝撃が走った。

 暫くして起き上がり、窓の外に目をやると、煙が天に向けて昇って行く様が見て取れた。言葉にならない恐ろしさを感じた瞬間だった。

 家への帰路。道行く人々のほとんどは顔が焼けただれ、ガラスがささっていた。家があったはずの土地は、全て焼け野原に変わっていた。幸いにも無傷だった自分が、この世で酷く異質なものに思えた。それほどに何もかもがめちゃくちゃに破壊されていたのだ。寝る場所がなく、草原に寝ころび一夜を過ごした。静まり返った暗闇の中、遠くでわが子を探して名を呼ぶ人の声がずっと響いていた。「これが戦争なのか」――。そう思うと、涙がどうにも止まらなくなった。

 「家が焼けても、親が死んでも休むな」。動員先にそう言われ、翌日は再び江波の街に向かった。造船の作業を進めるためだ。爆心地の近くに差し掛かったその時、前方からきた一台のトラックとすれ違った。唐突に名を呼ばれ視線を向けると、父の同僚が乗っていた。奇しくもその時いたその場所で、父は息を引き取ったと知らされた。

 その後、百姓をやっていた母の故郷に行き、幸いにも食べるものにはあまり困らない生活を送ることができた。アルバイトで家族を養いながら学校を出て、建築会社に就職。被爆者の中には差別的な扱いを受け、生涯を独身で過ごす人も多い中、29歳で妻と結婚した。妻の周辺には「苦労するぞ」と反対した人もいたが、妻は「苦労は買ってでもするもの」と取り合わず、結婚に踏み切った。

 そして、現在。毎年正月になると、野上さんの家には子どもたちと4人の孫が集まる。皆で賑やかに過ごす正月は、一番の至福の時だ。「この平和が、ずっと続きますように」。孫の顔を見ていると、切に願いたくなる。
 

戦後70年 語り継ぐ戦争の記憶

タウンニュースの各発行エリアで企画・編集した関連記事まとめ

http://www.townnews.co.jp/postwar70.html

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