「史跡ガイドボランティアの会」の会長を務める 前田 幸生さん 深谷中在住 72歳
命が紡いだ慎ましき歴史を
○…早川城跡や神崎遺跡、五社神社など、市内の文化財や史跡を楽しくガイド。豆知識を惜しみなく披露し、参加者を楽しませる「史跡ガイドボランティア」。2010年の立ち上げから会長として携わり、これから3期生も新たに加わる。「知って暮らすのと、知らないで暮らすのはやっぱり全然違います」。地に浸みこんだ歴史を深く慈しんでいる。
○…戦時下の鹿児島に生まれた。遊ぶ場所も少なく、引っ込み思案な性格で、幼いながらに祖父の古い戦史の本などを読むのが好きだった。「難しい言葉を使って先生を驚かせたりもしていたよ」。実の父を早く亡くし、美容師として勤勉に働く母に育てられた。「気風のいい人だった。困っている人が隣にいればすぐに一つあるものを半分にする人で、つい、自分の分が無くなると思うほど」。そのためか物欲や執着心はほとんどない。「心が豊かであれば」。亡くなった今でも母は特別な存在だ。
○…美容室で育ち、女性ばかりの環境を飛び出した青年は、男らしい職を選んだ。技術者として建設業に就き、青春時代は現場でケンカ、宿場でケンカの日々。「生き方が下手なんです」。我が強い性格で周囲との衝突もしばしば。尊敬する母へ手紙を送ることもせずに、人生を突き進んできた。家に帰るのは1年のうち3分の1程度。全国の現場を駆け回ったが、仕事以外の記憶はあまりない。「その地に眠る歴史は古代から紡がれたもの」。新しいものをそこに造る工事現場を思い出し、少し遠い目をした。
○…消えゆく村々の小さな歴史は放っておけば本当に無くなってしまう。地域の歴史は「参考書にはない、命が繋いできたもの」。尊さを想い、これからは「体が健康である限り、無くなってしまいそうな歴史を古老の話などを聞いて知らしめていきたい」。いま立っているこの地に誇りを感じさせてくれる地域の歴史を尊び、これからも学び、市民へ伝え広めていく。