連載 路線バスっておもしろい! 第4回 恋人たちの別れ路線バス運転士 坂井昭彦
休日の夜、駅向かいのバスを運行していると、バス停でカップルが待っています。
バスを停車させて扉を開け、経由地と行き先を案内しても、なかなか乗ってきません。「あれ?乗らないのかな?」と思って、「扉が閉まります」とアナウンスすると慌てて乗ろうとします。しかも一人だけ。
そう、これは休みの日にデートして、別れを惜しむカップルなのです。バスが来たから別れなくてはならない。でも、またしばらく会えないと思うと寂しくてなかなか離れられないのでしょうね。
でも私は、車外マイクの音量を大きくして「扉が閉まります、ご注意下さい」と言って催促します。「ずいぶん冷たいのね」とか、「ひどいですね」と思わないでくださいね。運行が遅れれば他の乗客や、この先のバス停で待っているお客様に迷惑がかかります。
決してひがんでいたり、いじわるしているわけではありませんから、念のため。
ただこれは、カップルだけに限ったことではありません。
親子の別れで、しばらく会えないんでしょうね。老いた親と中年男性との別れ。また、単身赴任や訳ありの男女の別れなんでしょうね。片方が子どもを連れて別れを惜しむ姿なども見受けられます。
そういう時も心を鬼にしてバスを発車させますと、いつまでも手を振って見送っている人、バスを追いかけて走ってくる人、バスの中でいつまでも泣いている人。なんか、この人たちの人生の節目に運転士として立ち会えたことに、すごく刺激を受けます。
こういう場に立ち会えるのも、バスの運転士の魅力の一つかもしれませんね。なぜなら登場人物として、この人たちの人生のドラマに参加できるのですから。
ボケ防止には効果的です…なんて言ったら、本人たちから怒られてしまいますね。
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