市自然人文博物館の学芸員で、横須賀製鉄所の建築技術に関する研究調査を行う 菊地 勝広さん 追浜東町在住 42歳
近代建築の源流求めて
○…1865年にフランスの技術支援によって横須賀製鉄所が創設されて、今年は150周年。「近代建築の源流は横須賀にあると言っても過言ではない」と語るように、レンガ製造、水道や灯台建設など海を渡ってきた最先端技術は、横須賀から全国各地へ波及。日本の近代化を支えた背景や実態を研究調査している。「どんなに素晴らしい価値があったとしても、誰かが事実を明らかにしなければ歴史がないのと同じ」
○…中学3年で建築士を志し高専へ進学、大学で設計や環境工学を専攻した。夢への歩みを進める最中、阪神淡路大震災が発生。全半壊家屋だけで約27万棟が被害を受けた。自然災害に脅かされる日本の建造物。建てる憧れから構造や機能性のあり方を重要視するようになり、研究職へ転身を決めた。出身は宮城県岩沼市。奇しくも3・11で実家は被災。問題意識はことさら強く持っている。
○…専門分野は横須賀製鉄所などの構造技術に関する研究。「変化する建築の本質を知るには過去を紐解く必要がある」と語気を強める。例えば横須賀製鉄所の近代的建築技術の解明には、建設を指導した技師ヴェルニーの母国・フランスの技術との対比が必要だった。海軍工廠があったブレスト市へ渡り、技師の子孫との面会や文献資料を分析。結果、両者のレンガ寸法が酷似し、フランスがルーツだったこと突き止めた。昨年には富岡製糸場で横須賀造船所の刻印が入ったレンガが出土。近代化の礎の地にも横須賀のDNAが流れていたことが分かった。
○…今月8日に行われる「都市景観フォーラム」にパネリストとして参加。研究課程で見えた街の魅力を説く。「近代遺産数は近隣市町村の中で屈指。普段から歴史的価値のある建物に接しており、もっと楽しんでもらいたい」。1世紀以上も前、最先端建築技術の集積地だった横須賀ならではの景色を毎日楽しめるのは市民の特権なのだから。
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