ウインドサーファーは「風に乗る」心地よさを知っている。目には見えない動力をセイルいっぱいに受け止めて海面を滑るように走る感覚は、何ものにも代えがたい魅力があるという。津久井浜海岸はそれを知る人たちが全国から集まるメッカのひとつだ。今年5月、世界のトップ選手が集うワールドカップ(W杯)がこの地で行われる。「風の吹く街」に多くの人の関心が集まり始めた今、ウインドサーフィンを軸にした地域の活性化にどんな手立てが必要か─。可能性を含めて地元セイラー5人に語ってもらった。
《進行は本紙編集長・安池裕之》
「風の吹く街」地域一帯でPR
─風に恵まれる津久井浜は、ウインドサーファーにとって屈指のゲレンデです。
須長 週末などに足繁く通うセイラーは多いですが、私を含めてここの環境を求めて移住する人も少なくありません。いいコンディションを逃したくないじゃないですか。
岩崎 私もその1人。海の目の前のマンションが住まいですが、住人の8割がウインドサーファー。ウインドを生活の中心に置いている人ばかりです。都内にある会社まで往復5時間かかりますが、通勤を犠牲にしてでも今の環境を優先したい。家に帰って海に浮かぶ月を眺めれば1日の疲れがリセットされます。
坂倉 地元に暮らしていれば、ウインドサーフィンは自然と目に入ります。以前までは風景の一部としか捉えていませんでしたがある時、ふと試してみたくなり、ショップの門を叩きました。今はすっかりハマっています。ただ、自分の周囲で楽しんでいる人は皆無。もったいないなと感じています。
─津久井浜では年間を通して大会が開かれており、全国から大勢の選手が集まっています。宿泊先の確保などに困ることはないのですか。
国枝 市内近郊のホテルなどを利用していますが、数が少なく苦労しています。車中泊の人は結構多いですね。
穴山 週末、訪れるたびにホテルを利用する、というのは経済的に厳しいです。海の近くに安価なゲストハウスなどがあったら喜ばれそう。
─長井で行われている「民泊」や空き家の利活用が一つの解決策につながるかもしれません。
国枝 ショップに大学生が40人ほど所属していますが、一番遠い学生で埼玉から通ってきています。空き家を彼らの合宿所として利用出来たら最高です。
岩崎 12月の津久井浜駅は観光農園を訪れる人たちでごった返しています。付近に手軽な宿泊施設があれば三浦半島周遊の新しい展開が描けるかもしれませんね。
─W杯の開催決定を受けて、地域の人たちがウインドサーフィンに関心を持ち始めています。
国枝 地元有志による応援団が結成されるなど、奇跡的な展開が急ピッチで進んでいます。まさに「W杯効果」ですが、皆さんが地域活性の起爆剤として期待を掛けてくれています。
坂倉 メディアを通じて「津久井浜」の新しいブランドイメージも発信されています。地域が盛り上がり始めており、地元経済人としてこの”上げ潮ムード”に乗っていきたいと思っています。
国枝 W杯と同時に地域の活性化が実現することが大切。大会を継続していくための必須条件だと思っています。
─それには「まちづくり」の材料ひとつとしてウインドサーフィンが位置付けられることが理想です。これを先行して実践している自治体に御前崎市(静岡県)があります。
国枝 ジュニア世代がサーフィンやウインドサーフィンを気軽に楽しめる環境づくりに町ぐるみで取り組んでいます。キッズスクールも活発で、ここから世界に羽ばたく選手が育っています。横須賀でもぜひ展開したいと思っています。安全面でもレスキュー体制が整っているほか、津波警報が発令されたら、海岸にオレンジ色の旗を掲げて避難を促すルールなどがあります。こうした部分も大切です。
─御前崎では、お茶摘みの繁忙期に地元のウインドサーファーが雇用を担っています。これを横須賀に置き換えると、人手不足に悩む農家と津久井浜で練習に励みたいウインドサーファーのマッチングが浮かびます。社会課題の解消や定住につなげることができるかもしれません。
国枝 学校とバイトと練習で四苦八苦している学生らにぜひ紹介したいですね。そうしたニーズが地域に存在していることを知りませんでした。
須長 ウインドサーファーと地域の結びつきは、これまでほとんどありませんでした。相互理解と情報交換を行うことで、プラスに転じさせられることがたくさんありそうです。私たちが求めたいこと、地域や行政が考えていること。未来志向の話し合いをたくさんしていきたいですね。
消費促す仕組みづくりを
─ウインドサーファーと地域消費について聞きたいと思います。多くの人は車でやってきて、海だけを楽しんで帰ってしまう傾向があります。
穴山 市外のウインドサーファーは津久井浜周辺の情報を持っていません。美味しいパン屋さんやラーメン屋さん、実は結構あって教えてあげたいと思っていました。
岩崎 俳優の石丸謙二郎さんと一緒に、シニア世代を対象にしたマスターズ大会を運営しています。全国から訪れる参加者に「おもてなし」を込めて、横須賀市内の宿泊施設、温浴施設、飲食店情報などをまとめたマップを作成して配布したことがあります。これは喜ばれましたよ。
坂倉 W杯では、そうした情報ガイドが必要でしょう。日常的にウインドサーファーを買い物客として呼び込むための仕掛けも考えていきたい。新規客の開拓につながるわけですから。
国枝 津久井浜を訪れるウインド人口の拡大は、地域消費とも密接に関係していきますよね。
岩崎 W杯はその両方を実現する千載一遇のチャンス。「いまやらなくていつやる」といった感じ。全力で頑張りましょう。
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