自分の技術や能力を社会で試したい、より多くの収入を得たい、自分のペースで仕事を続けたい─。
起業を志す人の動機や理由は様々だが、魚梁(やな)玲子さんの事情は少し異なる。両親に対する感謝の気持ちが挑戦を決意させた。
2年前に他界した父が営んでいた「理容室 大山」。北久里浜駅近く、平作川沿いにある小さな店舗は数年前からシャッターを下ろしたままの状態だった。「散髪は大山と決めていた。店がなくなってしまって寂しい」。父の人柄のよさとカット技術の高さに惚れ込んで通ってくれた当時のお客さんからそんな声を数多く聞かされた。店舗の再開も懇願され、背中を押される形でこの春、開業に踏み切った。
10代の頃、父と同じ理容師の道を選んだのは、「自然の流れ」。反発や照れくささがあり、一緒に店に立ったのは少しの期間だったが、仕事と真摯に向き合う姿に職人を感じた。
「店を継いで欲しいとの思いもひしひしと感じた」が、そうしたことは生前、一切口にしなかった。
若者の理容室離れに、低価格をウリにする店舗の台頭など業界を取り巻く環境は厳しい。オシャレさを前面に打ち出した店舗で再出発するやり方もあるが、あえて昔ながらの店舗スタイルにこだわった。バーバーチェアを新調し、理容室の目印である赤・白・青の三色のサインポールを店頭に設置。もちろん店名はそのままだ。そこには経営的な戦略がある。「今風のガラス張りのサロンはなんとなく入りづらい」─行き付けの床屋をなくして”散髪難民”となっている年配層が数多く存在していることをヒントにした。
「父のなじみ客もそうした人たち。1人ひとり丁寧に接したい」
*市内で起業し、事業継続・拡大を目指す女性を取材した連載です。
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