一本の丸太をくりぬき、自分たちの手で削り上げたアウトリガーカヌーで海に漕ぎ出す─。そんなロマンあふれるプロジェクトが、横須賀市と三浦市の市境に位置する矢作海岸で進んでいる。メンバーらは、海とともに長い歴史の中で培われたカヌーの技術に触れて欲しいと、作業への参加や見学を広く呼び掛けている。
丸太からカヌー削り出す
プロジェクトは、矢作海岸にある「三浦ビーチハウススタジオ」を拠点に、海の保全を啓発するイベントや講演、ビーチクリーンなどを行っているNPO法人「海の歴史と文化を明日へ」のメンバーが進めている。
横須賀市内の企業に勤務する同NPO代表の豊岡誠司さんほか4人の男性が全長4m、3人乗りのアウトリガーカヌーの完成を目指している。本体の横に浮きがつき、波の揺れに強く、古くからハワイやポリネシアの人々が乗っているものだ。
豊岡さんはアウトドアとその道具を手作りするのが趣味。これまでシーカヤックやSUPボード、パドルなどを自作しており、テレビに取り上げられたこともある。今回はこれまでにない挑戦。「丸太をくりぬくのは初めて。作る過程でたくさんのことを学べたら」と溌溂とした笑顔を見せた。
第一人者直伝
プロジェクトは、ビーチハウススタジオのオーナーで、同NPO法人の前代表でもある齋藤豊紀さんが、国内のウッドアウトリガーカヌー制作における第一人者・土橋秀男さんを招いたことで実現した。
南伊豆に住む土橋さんはハワイの職人から指導を受けた経験を持ち、地元を中心に各地で木製カヌーを制作してきたほか、地域でカヌーツアーを行っている。
運ぶのもひと苦労
「丸太から船を作るのは一つの夢でした」と口を揃えるメンバーたち。しかし、南伊豆の山から切り出されたセコイアの丸太は直径70cm、長さ5m、重さ1トンの大木。3月14日に海岸近くの道路までトラックで運んだが、砂浜を越えてビーチハウス前の作業場まで運ぶのもひと苦労。重機を駆使しながら準備を整えた。
手元にあるのは、おおまかな完成予想図のみ。土橋さんの頭の中にある設計図だけが頼りだ。木枠を作って切り落とす部分に目星をつけ、大型のチェーンソーで豪快に切っていった。
「土橋さんの動きには迷いがない。身体が覚えているんでしょうね」と感心する豊岡さんがひとつひとつの作業の意味や理由を聞くと、「言葉で説明するのは難しいな。見て覚えてくれ」と土橋さんが答える。まるで師匠と弟子のようなやりとりが続けられた。
今月末に進水式
作業は順調に進み、先月半ばで大まかな削り出しは終了。残るは細部の作りこみと船全体の防水塗装のみとなった。
豊岡さんは「めったに見られない作業現場なので、大人から子どもまで、多くの人に見に来てほしい。実際に、木の温もりや先人たちの技術を感じてもらえたら」と話している。5月25日(土)・26(日)に進水式を兼ねたイベントを予定。協力者には完成したカヌーに乗船体験してもらうという。
作業実施日などの詳細はホームページ【URL】http://npo-urba.at.webry.info/
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