「身体が許す限り、人前に立ち続けたい──」。背筋を伸ばして、頭をフル回転させる。他者の視線が心地よい緊張感となる。久里浜商店街が行っている高齢世帯向けの宅配サービスを題材にした短編ドラマで、息子家族の転居で一人暮らしとなり、気持ちがふさぐ高崎道子役を演じた。87歳にして初めての映像作品出演。"女優の真似事"を経験し、心が躍り出す楽しい時間を過ごした。
人前に立つ、心が躍る
高台の1軒家でひとり住まい。離れて暮らすようになった小学生の孫のことを気に掛けながら寂しい日々を過ごしている、道子。注文商品の配達で訪れた商店街の担当者がその様子を目にし、彼女を励まそうと策を練る──作品はそんなストーリーだ。
実は台本を渡されてびっくりした。「私の今の境遇とほほ同じ」。息子のすすめで、長浦の住まいを引き払い、この春、武にある高齢者施設に夫と入居したばかり。コロナ禍で孫たちと会うこともままならない。振られた役を自分自身と重ね合わせて、自然体で演じた。
短くも深い、一つひとつのセリフを丁寧に嚙み砕きながら、自分のものにしていくと、役柄と自分が一体化していく不思議な感覚を味わった。「演じることの面白さに気づけたのは勇気を出してチャレンジしたからこそ」と満面の笑顔。11月で米寿(88歳)を迎えるが、人生のアクセントになったと喜んだ。
一昨年、地元の横須賀でシニア劇団が旗揚げされることを知り、自ら応募した。80歳まで日本舞踊の師範として舞台に立ち続けてきたが、動きにキレがなくなり、納得のいく踊りができなくなったことで引退を決意。「演劇なら年齢や個性を活かした出番があるはず」と挑んだ新しい生きがいだった。週2回の稽古をコロナ禍でも継続している。リモートが中心だが、スマートフォンの操作に悪戦苦闘しながら、本番に臨む準備を怠らない。
今回の出演は、舞台公演の案内チラシがきっかけとなった。劇団員を紹介する写真を目にした映像作品の制作担当者が「イメージにぴったり」とオファー。想像もしていなかったチャンスが巡ってきた。
「(小林さんが)女優さんをされたのよ」。入居者が集まるホームのロビーで施設長が声を掛け、即席の鑑賞会が開かれた。パソコン画面に映し出された映像をみんなが興味津々に覗き見る。ホームが温かい空気に包まれた。
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