写真集『解体されゆく電車の風景』を自費出版した 鈴木 友さん 鴨居在住 22歳
亡き父との記憶さがして
○...無造作に外された扉や座席、剝き出しになった電線。見慣れた電車の変わり果てた姿のみにフォーカスを当て、克明に写し取った。憂いを帯びた顔で、異質なオーラを纏った表紙に目を落とす。「それぞれの役目を終えて、解体された車両の亡骸たちは、いつも私に哀愁を感じさせる」
○...幼い頃から電車好き。13年前、祖父に連れられ、京急電鉄久里浜工場を訪れた。「引退した車両の荒れ果てた姿は衝撃だった」。以降、工場のフェンス越しに廃車を眺め、記録として写真を撮りためるように。充実した日々を過ごしていたのもつかの間、京急の運転士だった父・忠さんの身体がガンに侵されていることが発覚。闘病も虚しく、小学5年生の終わりに帰らぬ人となった。「仕事熱心で自宅にいる父の記憶はほとんどない」。やりきれない思いだけが濃く残った。
○...親の死と直面したことで生きる意味を見失い、中学では不登校になった時期もあった。ふと工場に行くと、焼き切られた痛々しい電車がシンと澄んだ空気に包まれ、傷ついた自身の心と重なった。悲しみを振り払うように、ただひたすらシャッターを切り、800形を運転する父の背中を最前列の窓越しから覗いていた日を胸中で反芻した。ガランとした車両は天候や時間によって違った表情で語りかけてきた。家族の後押しで、膨大な量の写真を厳選し一冊にまとめた。ページをめくると、父との思い出が一気に押し寄せた。
○...写真集を出版した後、父の同僚から祝福の声が贈られるなど、反響は大きかった。人生の支えとなった工場の光景も前より輝いて見え、心境の変化を痛感せざるを得ない。「もっとカメラの腕を磨いて、次作では多くの人と時を巡る車両の魅力を届けたい」
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