タウンレポート 三崎に響く送り手の想い
出港するマグロ漁船に、陸から船員の航海無事と豊漁を祈りながらマイクを手にメッセージを送る女性がいる。全国海友婦人会の橋本則子さん、岩越美香子さん、宮野万喜子さん、三浦洋子さんの4人。同会会長の橋本さんは「私たちは皆、船員を家族のような思いで送り出している」とやさしく語る。
無事帰還と豊漁を祈って
「本日のご出港おめでとうございます。また、お見送りの皆様にはお忙しいところ大変ご苦労さまでございます。乗組員の皆様にはお元気でご活躍、航海の安全と大漁されますことを、そして1日も早くこの三崎港へ満船入港されますよう、三浦市民一同ご家族と共に心よりお待ち致しております。お元気で、安全な航海と操業をお祈り致します」―。メッセージとともに景気づけの軍艦マーチが港周辺に響き渡る。
9月15日、花暮(はなぐれ)岸壁から一隻のまぐろ漁船が遠洋に向け出港。橋本さんたちが勤務する三浦市船員家族待合所で、橋本さんはマイクを手に窓越しに見える船に向けメッセージを送る。橋本さんの声に応えるように、甲板にいる船員は、両手を大きく上げ、見えなくなるまで橋本さんたちに向かって手を振る。スピーカーから聞こえる声は、見送りに来られない家族に代わって「いってらっしゃい、頑張って」と、全船員の母のような優しさに溢れている。「彼らは海上で1年以上過ごさなくてはならない。無事に三崎に帰ってきてという思いに自然となる」と橋本さんは海をいつまでも見つめる。橋本さん、岩越さん、宮野さん、三浦さん4人とも船員の妻。船乗りの気持ちは誰よりも熟知している。「仕事とはいえ、家族と別かれ、長期間離れ離れになる男の辛さが分かる。出来ることなら行ってほしくない」と本音を漏らす。だからこそ「成果として陸揚げされたマグロは美味しく頂かないとバチがあたる」ときっぱり。
三浦市船員家族待合所は昭和54年、船員を見送る家族が出港前の時間を過ごしてもらうために市が建てたもので、昭和58年から全国海友婦人会が市の委託を受け運営している。出港時、船にメッセージを送ることを始めたのは定かではないが「私達の前からやっていたと思う。出港する船に思いを馳せ言葉にするのは見送る側としては当然のこと」。
橋本さんはこの仕事を始めて約17年。全盛期は毎日マグロ船が出港していたが、今は1カ月に1〜2隻だという。最近は、インドネシア人の船員も多いことから、日本語の後にインドネシア語に訳したメッセージも送っている。また、出港時には長い航海を前に少しでも栄養を付けてほしいという思いから、同会手作りの具たくさんの味噌汁とインドネシア人向けのスープを振舞っている。「遠洋マグロ漁業で栄えた三崎。これからもこの火を消さないように、できることをやっていきたい」と希望は捨てない。
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