初声町下宮田の吉本敏克さん(80)は、自らが30年前に旗揚した市民劇団「プロジェクト夢樹」の新たな公演を約半月後に控え、稽古に余念がない。今回は演者と演出の一人二役。「自分でも無茶するなって思うけど、好きなことだから」。来たる幕開きを心待ちにする。
祖母から聞かされた話によれば、幼い頃はよく動物の真似をしていた。犬や猫など、思い起こせば子どもながらに演じることの楽しさを感じていたのかもしれない。進学先の県立横須賀高校では、演劇部に入部。これが人生のターニングポイントだった。卒業後、一度だけプロを志したこともあったが、名門劇団「文学座」の入所試験はあえなく不合格。「条件が容姿端麗、身長は180cm以上。これは無理だなって」と苦笑い。「でも、それが地域演劇に専念しようというエネルギーになったと思う」
その後は、横須賀市内で新劇団の結成や連盟創設のほか、数々の舞台で出演・演出を果たしてきた。
妻への感謝、胸に
1人では舞台を作ることができない。演者、裏方、観客、支えてくれる人がいて成立する。約60年の演劇活動を振り返ると、特に口をついて出るのは妻・糸子さんへの感謝の念だ。
「芝居を辞めるから結婚してほしい」。そうして一緒になった2人だが、敏克さんは長年追いかけてきた夢を捨てられず約束を反故にしたばかりか、芝居に没頭するあまり、職を転々。
過去を顧みると忸怩たる思いがある。「今も時々、『話が違う』と言われる」と少しバツが悪そうに話すが、「それでも今まで応援してくれて大感謝しかない」
実は糸子さんも舞台の裏方出身。今作では衣装などを担当する。子供が独立し、それぞれの親も見送った今、ようやく2人で落ち着いて作品に向き合える幸せを噛みしめる。
情熱絶やさず
これまで幾度となく大病を患い、その度に自分を奮い立たせてくれたのは、やはり演劇への情熱だった。「次は何をやろうか」。ベッドの上で演目を選び、復活の日に思いを馳せてきた。
いい舞台は身体づくりから。「足腰を鍛えるため、毎日数千から1万歩は歩きます」。寄る年波、心身の衰えと闘いながら3ページもの長台詞に挑むとともに、演出家として後進の指導に熱を込める。
初めて演劇に触れた高校生の時分に抱いた夢や純粋な思いは健在。「これが集大成の舞台になると思うが、今後も様々な形で携わっていきたい」。人生の幕が降りるその日まで、生涯演劇人。それが今の目標だ。
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