三浦の咄いろいろ みうら観光ボランティアガイド協会 田中健介
江戸時代に、「正月屋」という言葉がありました。汁粉や雑煮などを売る大道商人のことです。(『江戸年中行事』中公文庫)
上方(かみがた)のある地方では、正月の餅を搗(つ)くとき、最初の臼で二つの餅をとるのです。食用の小餅とお飾り用の大きな丸い餅を用意します。年神さまに供える「鏡餅」のことです。この餅を「イタダキの餅」と言うのだそうです。
除夜の鐘が鳴ると、家内一同座に着きます。すると、主人が扇子を持って出てきて挨拶をし、一同に祝儀を出し、さらに、「イタダキ餅」を頂戴し、さらに「御神酒(おみき)」をいただくのです。この式が終わると、主人は若水(わかみず)(一年の邪気を除き、人を若返らせるという水)を迎えに行くのです。元日の雑煮はこれで炊(た)くのです。いただくべき餅は個々一つずつで、これを「ハガタメの餅」と言うのだそうです。
雑煮を食べるのは神と共に一つのものを分けて食べることで、「相饗(あいにえ)」という神事でもあるのです。
鏡餅(かがみもち)は一定期間、神様に供えた後、下げて家族で食べます。これを「鏡開き」と称しています。
いったん神様に供えたものを下ろして食べることを「直会(なおらえ)」という、重要な神事と言われています。
鏡餅は丸い形が鏡に似ているので名付けられたのではなく、昔は「餅鏡」と書いていたそうです。『源氏物語』の「初音の巻」に、「歯固の祝して餅鏡をさへ取り寄せて」とあり、「餅で作った鏡」の意なのです。
『民俗学辞典』では、元日の朝もしくは除夜に餅、栗、干柿、飴などを食べることになっているが、正月の餅を乾燥させて、貯えておき六月一日に食べる習慣があった。とあり、これは「歯固めに食うこと」としています。「歯固め」の「歯」は口の歯ではなく、「齢(よわい)」(年齢(ねんれい)のこと)の略字で、「齢を固める」とは、すなわち、「長生を得る」ことなのです。『枕草子』四十段に「よはひ(年齢)を延(の)ぶる歯(は)固(がため)」の表現もあります。
六月一日の、この時、『古今集』に載る大伴黒主の「あふみのや鏡の山をたてたればかねてぞ見ゆる君がちとせは」という歌を吟ずる慣(なら)わしであった。とも言われています。「近江(おうみ)」と「鏡」の結びつきは、この地より貢上された「歯固めの餅」が用いられたことによるものと言われています。また、「鏡」と「千歳」との結びつきは、歯固めが長生(ながい)きを目的とした呪法であったからである。とのことです。
以上のことは、『日待・月待・庚申待』(飯田道夫著・人文書院)所載のものを参考にしました。
令和二年の新春に、自己の歯をしっかり固めて長寿を願いましょう。
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