夫の都内転勤に伴い、生まれ育った関西から居を移した一級建築士の長坂絵理さん。“ニュータウン育ちの盆地暮らし”だったこともあり、探したのは海が至近で、静かな街にある古い物件だった。国府津、久里浜、逗子、鎌倉…県内の様々な候補のなかから城山町にある古民家を選んだ。
「一目惚れだった」。推定築年数は60年以上、昭和初期の住宅に見られる模様がほどこされた型板ガラスや欄間、モザイクタイルの流し台などの設(しつら)え、人の営みとともに歴史を刻んできた佇まいに魅せられた。購入後、自らの設計でリノベーション。意匠はなるべく残し、機能は現代の生活に合うものをと、手を加えるごとに愛着が深まっていった。
三浦市、ましてや三崎のことは転居するまで知らなかった。当初は慣れ親しんだ地を離れることに拒否感もあったと吐露。それでも商店街や海辺を歩けば、懐かしさと新しさが混ざり合う三崎らしさに興味を持ち、地元住民と親睦を深めるうちに「この街なら住んでみたい」との思いを強くしていった。
その一方、シャッターの閉まった元店舗や住人のいない空き家に地域衰退の影も見た。人を惹きつける“らしさ”が失われてしまう前に何かできることはないか、建物や街並みを残すことで自分と同じようなファンが1人でも増えるきっかけをつくれたらと、「練建築舎」と名付けた設計事務所を昨夏開業。「繰り返し手をかけ、いいものにする」という意味を持つ「練」に思いを込めた。「魅力的で、まだ使える建物をいかす仕事がしたい。朽ちたり、取り壊しになるのは寂しいから」
手製の暖簾(のれん)が来訪客を出迎える、自宅を兼ねた事務所の一部を開放。空き家だった古民家を生まれ変わらせ、三浦暮らしの一端に触れてもらうモデルハウスとしての役割も担う。
今では地域のイベントや交流会などに参加したり、顔なじみの飲食店が増えたりと、夫妻揃ってすっかり周囲と打ち解けた様子。「三浦が好きで、ずっと暮らしていたい。だからこそ街にとって良いことになるのなら、積極的にやりたい」と笑顔を見せた。
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