逗子小学校校長 神田 寛さん 60歳
「楽しく、面白く」を形に
○…「ねー見て。あれ僕が描いたの」。子どもが友達を連れ立ってやってくる。壁に所狭しと飾られた児童の作品。恐竜や動物を模した彫刻が彼らを出迎える。厳(いかめ)しい肖像画が並び、何となく入りづらい―。そんな校長室のイメージとはかけ離れた空間だ。逗子小学校に赴任して3年。校内には、「ものづくりを通じて面白さや楽しさを伝えたい」と願った自身の足跡がそこかしこに散りばめられている。
○…「元々美術教諭だからね。何か作って、面白いことをするのが好きなんですよ」。開放的な校内に馴染めない子のための木製隠れ家「Den(でん)」。児童の絵を校舎に投影する「プロジェクションマッピング」。数十年ぶりに復活させた日時計。いずれも保護者やボランティアの協力を仰ぎながら仕掛けてきた。中学校赴任時代は、校庭で手作りの気球を飛ばしたり、街中の空き缶をかき集めて巨大なヨットを作ったこともある。枚挙に暇がない。「楽しいことをやると子どもがついてくる。だから余計頑張っちゃう」と目尻に皺を寄せる。
○…教師になったのは25の時。美大を卒業し絵描きになることも考えたが、「教師なら休みもあるし楽そう。仕事をしながら絵も描けるんじゃないか」そんな理由だった。「志を持った人と比べたら動機は不純」と振り返るが、その後は教員一筋。中学校で足掛け25年教鞭をとり、市教委や県教委でも勤務した。
○…部屋の片隅に置かれた箱には、卒業生への贈り物が詰まっている。感謝と、手向けを込めて自らが焼き上げたマグカップ。教諭時代からの恒例で、通算4千個を超える。「私自身楽しみながら作っていますよ。それに生活の中で使ってもらえたら幸せ」。35年の教員生活も今月限りだが今は自信を持ってこう言える。「天職だった。教師になってよかった」。今後は「陶芸に本腰を入れたいし、何か新しいことにも挑戦したい」。楽しく、面白くを形に。それは第二の人生でも変わらない。
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