自宅の垣根を菊で飾り、毎年地域にお披露目している 加茂 幸次さん 逗子市桜山在住 80歳
菊とともに半世紀
○…「加茂さんの菊」と言えば桜山の界隈ではちょっと知れた秋の風物詩だ。赤や白、紫に橙。自宅の垣根約8mに渡って植栽された「立ち懸崖(けんがい)」は、毎年秋が深まると芳しい香りをまといながら色鮮やかな壁となって通りすがる人々を魅了する。今年も蕾が膨らみはじめ、見頃まであと数週間というところ。「夏の暑さが厳しかったから少し心配だけど、たぶん綺麗に咲いてくれるんじゃないかな」。垣根を背にニコリと笑った。
○…菊との付き合いは半世紀近くにもなる。義父が趣味で作るのを見て、自らも嗜むようになった。花の艶やかさとは裏腹に摘心や消毒など1年を通じて手間のかかる菊作り。専門書や雑誌を読み込み、研究を重ねた。ぱらぱらとめくるノートに書き連ねられたメモが、試行錯誤の形跡を物語る。曰く、菊づくりは時に子育てよりも難しい。「子どもは異常があれば泣いて知らせてくれるけど、菊はそうはいかない」。物言わぬからこそ”顔色”を伺いながら注意深く。それだけ手塩にかけた菊が花開く瞬間は何物にも変えがたい。
○…逗子菊花会の会長を務めて19年になる。来月2日から行われる菊花展を最後に会は解散するが、40年来携わってきた会への思い入れは今なお深い。国体が逗子で行われたたとき、来賓する皇族を出迎えるための菊の手配を依頼されたことがある。しかし時期は10月。ごく早咲きのものを八方手を尽くしてかき集めた。不安はあったが、菊は無事花開き、会場を彩った。「あれは本当に嬉しかった」
○…「地域への恩返しに」と始めた懸崖のお披露目も16年目。メディアに度々取り上げられたこともあり、鑑賞に訪れる常連も増えた。一時は辞めようかとも考えたが、「来年また来るね」「今度は友達を連れて」そんな声でまた今年も手が動く。何より半世紀ともに歩んできた菊への愛着がある。「姿良し、香り良し。菊は秋の王様だよ」。そう語る表情はどこか誇らしげだった。
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