昨年12月公開された映画「バンクーバーの朝日」。100年前、カナダ中の人々を熱狂させた日系人野球チームの足跡を最初にまとめた男性が桜山にいる。原作者のテッド・Y・フルモトさん(66)だ。朝日軍エース投手だったテディ・フルモトの子息でもある。
「日本人に知られていなかったチームの名前が、ようやく広まってきた」。フルモトさんはかみ締めるようにそう話す。
日系人野球チーム「バンクーバー朝日軍」は1914年にカナダで誕生。当時、日系移民は過酷な労働や貧困、人種差別に苦しんでいたが、チームはフェアプレーをモットーに白人チームを相手に次々と勝利を重ねていく。その姿は日系移民にとっての唯一とも言える希望で、徐々に白人たちの心をも動かした。ついにはカナダ最強チームに上り詰め、朝日軍は伝説となる――。
その歴史を1冊の本にまとめたのが7年前。きっかけは10数年前、父のチームメイトが存命であることを知り、一目会おうと初めてカナダに渡ったときのことだ。父とバッテリーを組んでいた元捕手、ケン沓掛さんの言葉が胸に突き刺さった。
「日本人は、朝日軍のことを知っているか」。自分は幼いころからチームの活躍を父から聞いてきたが、思えばテレビやラジオで流れたこともない。「いえ、全く知られていないと思う」と返すと集まった約10人のメンバーは悲しそうに俯いた。「私たちもう歳だ。このまま朝日軍の歴史が風化してしまうのは忍びない。どうか君が日本の人たちに知らせてはくれないか」。朝日軍の足跡を伝えるのは亡くなった父親の念願でもある。二つ返事で引き受けた。
当初は、いくつもの出版社を回り書籍化を持ちかけるも相手にされず、実現には時間を要したが、紆余曲折を経て、著書「バンクーバー朝日軍」を08年に刊行。苦境にさらされながらも、情熱を注ぎ、勝利を積み重ねていく選手たちの生き様は多くの共感を呼び、瞬く間に6万部を超えるヒット作となった。その後、米、英、仏など11カ国でも英訳版が出版され、12年には漫画化。昨年はついに映画化にまでこぎつけた。
昨年12月20日に公開された「バンクーバーの朝日」は自身の著作をもとにしたフィクション作。出演には佐藤浩市さん、妻夫木聡さんら豪華顔ぶれが名を連ねる。「映画になればより多くの人が朝日軍のことを知ってくれる。きっと父も『よくそこまで持っていったな』とほめてくれるはず」とフルモトさんは目を細める。
朝日軍の足跡をつづることは、自身にとってライフワークそのものだ。「父たちが築き上げてきた歴史を伝えていくことは私に課せられたミッション」と言い切る。それを続ける背景には、もう一つの思いがある。「選手たちの姿を通じて多くの人に勇気や希望を届けたい。そして戦争のない、平和の尊さも伝えられたら」
|
<PR>
逗子・葉山版のローカルニュース最新6件
|
|
|
|
|
|