葉山に生まれ育ち、大志を胸に角界に飛び込んだ青年がいる。武蔵川部屋に所属する横江(よこえ)黎(れい)さん(19)。昨年11月、九州場所で初めて土俵入りし、プロの仲間入りを果たした。今はまだ駆け出しの身だが、「いずれ関取になって、故郷に錦を飾りたい」と日々厳しい稽古に励んでいる。
大志胸に角界へ
ドン、パシン――。
師走の朝、都内にある稽古場には四股を踏む音が響き渡っていた。次第に汗のにおいと熱気が立ち込めていく。「お願いします!」。20番の勝ち抜き戦を行う申し合い稽古。体格を上回る兄弟子にも果敢に挑んでいく眼には戦う男の闘志が漲っていた。
入門からおよそ3カ月。毎朝6時には目をさまし、平日は両国の相撲教習所へ足を運ぶ。週末は部屋での稽古。その他にもちゃんこ番や風呂番の仕事もあり、暇(いとま)はほとんどない。一人前になるまでは単身外出することも許されないが、「今がめちゃくちゃ楽しい」と声を弾ませる。「相撲は自分の力と技だけで勝負が決まる。稽古は辛いけど、勝ったときはその倍楽しい。もっと頑張ろうと思える」。入門前は85キロほどだった体重も30キロ近く増え、一回り逞しさが増した。
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元々相撲の世界に憧れがあったわけではない。むしろ、始めは格好悪いとさえ思った。神奈川工業高校時代はラグビー部に所属。練習の一環で取り入れていた相撲で、激しい当たりにも力負けしない体格の良さが相撲部顧問の目に留まり、その勧めで大会に出場するように。基礎しか身に着けていない素人にも関わらず、2年生で出場した県大会では破竹の勢いで優勝した。
卒業後、一度は県内の工業メーカーに就職。しかし日が経つにつれ湧き上がってきたのは、それまでは気づかなかった相撲への情熱だった。「自分はこんなにも相撲が好きだったのか」。募る思いを抑えきれず、わずか3カ月で退職。その後顧問の紹介で訪れた武蔵川部屋の夏合宿参加が転機になった。
初めて目にするプロ力士の稽古。その印象をこう振り返る。「格好いいと思ったんスね」。幾度も倒され、砂まみれになっても立ち上がる姿に心打たれた。この世界で生きていきたい――。合宿後、迷わず部屋の門を叩いた。
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まだまだ勉強中、力士としても素材の身ではある。だが、素質は本物だ。師匠の武蔵川親方(元横綱・武蔵丸)をして将来的に「関取になれる器」。「体つきが良く、力も強い。あれくらい押す力があって、細かい動きや技を磨いていけば(関取に)なれるよ」と有望視する。先の九州場所では手ごたえもあった。前相撲でサラブレッドとして下馬評の高い、佐渡ケ嶽親方の長男との一番。結果は黒星だったが「手の届かない相手じゃない。次は必ず勝ちたい」と意欲をにじませる。今は師匠や雷親方(元小結・垣添)の指導を一心に受け、精進を重ねる日々だ。
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夢を問うと「絶対に関取になる。幕内に入って自分がどこまであがれるか。それを最低条件と思いたい」と言葉に力を込める。その裏側にはこんな思いがある。力士を目指した直後、周囲に相談することもなく、飛び出すように故郷をあとにした。「でも皆応援してくれる。その人たちのためにも頑張りたい」。最初は反対しつつも、力士になることを認めてくれた両親に「いつか恩返しをしたい」との思いもある。
プロとしての真のスタートラインは、序ノ口として土俵に立つ今場所。いずれは番付を上げ、関取になって故郷に錦を――。葉山から巣立った青年の夢をかけた挑戦が、今始まる。
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