逗子・葉山版 掲載号:2016年5月27日号 エリアトップへ

国内外で作品展を行うなど「透明標本作家」として活躍する 冨田 伊織さん 葉山町長柄在住 32歳

掲載号:2016年5月27日号

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生き物ってすごいな

 ○…それはまるで魔法のようだ。フグやエイ、イカなどの魚介等を繰り返し特殊な薬品に浸すことで次第に筋肉が透け、骨格が鮮やかな赤や紫、青色に染まっていく。完成したのは思わず息をのむ、色彩と造形美を兼ね備えた世界でひとつの芸術作品だ。元々は研究用として扱われてきた「透明標本」をアートの域にまで昇華させたパイオニア。これまで手掛けてきた作品の数、実に数万点にのぼる。

 ○…水産学を学んでいた大学時代、講義で紹介された透明標本に心打たれた。「なんて綺麗なんだろう」。手に入れたいがどこにも売っていない。ならばと在学中から透明標本を作るようになった。転機は8年前、自作した透明標本をSNSで発信するうち、大規模なデザインイベントがあることを知る。それまでデザインの世界には無縁だったし、生き物を作品とすることに批判があるのではと不安もあった。だが、ブースには人だかりが押し寄せ、矢継ぎ早に質問が飛んだ。「素晴らしい。一体どうやって作っているんだ」。この仕事で生きていけるかもしれない――。人生のレールが切り替わる音が聞こえた。

 ○…埼玉の生まれ。幼い頃から父とよく釣りに出かけ清流に泳ぐ魚をずっと眺めたり、生物図鑑を丸暗記するほど生き物が好きだった。卒業後、会社勤めを経て漁師を志していたこともある。原風景にある、豊かな自然を求めて。数年前、葉山に越してきたのもそんな理由からだ。

 ○…制作は細かい作業の連続で、指先ほどの作品でも半年以上を費やす労作。その過程では作者ならではの楽しみもある。透明にすると、今まで知らなかった魚の骨格が不意に浮かび上がったり、飲み込んだ餌が見え、生物の営みを感じたり。「そういう発見が最初にできるのは、役得ですね」と笑う。そんなときいつも感じることが「生き物ってすごいな」。少年のような無邪気な顔で語った一言が、今も変わらぬ原点だ。

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