第91回アカデミー賞最多4部門を受賞した映画『ボヘミアン・ラプソディ』。クイーン現象を巻き起こし、観客動員数は860万人を超えた。このブームを特別な思いで見ているギター製作者が逗子にいる。ブライアン・メイのギターに惚れ込んで自ら作り上げたうえ、本人からも認められた伊集院香崇尊(かずたか)さん(43)だ。クイーンとの出会いやシグニチャーモデル発売までの苦労、そして現在、注力しているオリジナルギター作りについて聞いた。
クイーンのギタリスト、ブライアン・メイが愛用するギター「レッド・スペシャル」は世界に1本しかないことで知られる。それもそのはず、彼が少年時代、父親とともに作ったものだからだ。
デザインはもちろん、塗装や配線、トレモノユニットなど各パーツもメイ自身が設計し製作。ギター作りの常識からはかけ離れているが、多彩な音色でクイーンのサウンドを生み出した。そしてメイは現在も、ライブで使い続けている。
欲しいから作った
伊集院さんは高校生の時、クイーンの音楽に出会った。「リアルタイムではなかったが、それこそボヘミアン・ラプソディを聞いて衝撃を受けました」。友人らと演奏にも挑戦したが、興味は次第にギターに向いたという。「レッド・スペシャルのサウンドはもちろん、この楽器が持つストーリーに惹かれた。文字通り世界に1本しかなく、それがクイーンの存在にも重なる。ギターを作りたいというより、レッド・スペシャルが欲しい、それならば作るしかないと思ったんです」
ネットが先生
専門学校に通って基礎を学んだが、一番参考になったのはギターマニアが情報交換する海外のサイトだったという。ほぼ独学でギター作りを開始し2001年、レッド・スペシャルを製作するための工房「ケイズ・ギター・ワークス」を埼玉県に開いた。
その後、オーストラリアの著名なギター製作者との出会いなどを経て、2007年から10年にかけて、シグニチャーモデルを製作・販売。08年にはメイ本人がワールドツアーで演奏したこともあり、伊集院さんの名は国内外に広く知られることとなった。
予想外のブーム
ゼロから作り始め、ブライアン・メイにも認められた達成感から、一度は工房を閉めることを考えていたという。しかし、15年に逗子市桜山に工房を移転。それまで得た知識や技術を生かし、デザインや構造、ピックアップなどの各部品に至るまで全てオリジナルのモデルを製作しており、国内外のミュージシャンから高い評価を受けている。
現在のクイーンブームは予想していなかったという伊集院さん。「正直、コアなファンが観るくらいかと思っていた。若い子への浸透が特にすごい」と驚きを語る。
折しも、自身が手掛けるオリジナルギターや自らの工房の宣伝のため、しばらく中断していたレッド・スペシャルの生産を昨夏から再開していた。映画公開後は問い合わせが飛躍的に増加。現在は、夏まで受注予約が埋まっているという。
「こうした反応は嬉しいが、うちはあくまでオリジナルギター製作工房。自分が本当に良いと思ったものを、世界の人たちに届けたい」。かつて憧れた1本を胸に、理想のギター作りは続く。
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