創立50周年を迎えた「一般社団法人江の島ヨットクラブ」の会長を務める 浪川 宏さん 鎌倉市在住 72歳
「里の海」から新風を
○…1964年の東京五輪でのヨット競技運営をはじめ、世界中のセーラーを迎えるために誕生した「江の島ヨットクラブ」。9月14日、創立50周年を迎え、第7代会長として記念祝賀会を執り仕切った。自身も会長歴10年と節目となり、現在は約150人を有する会員の舵取り役を担う。日本を代表するクラブとしての歴史や伝統があるが、「鼻にかけることなく、ヨット文化振興のためにもっと開かれた場を目指していきたい」と謙虚に語る。
○…鎌倉・雪ノ下の出身。「海があることは当たり前で、生きる場所だった」。横浜国立大学ではヨット部に所属し、競技に打ち込んだ。「海の上では全てが自然まかせ。大自然の中の一点になれたり、厳しさや静けさの中で自身の心を問うことができることが魅力でしょうか」。風の読み方も人それぞれで、人柄が出るのも面白さの一つだという。
〇…現役の一級建築士として数々の建築物に携わり過去には藤沢市民病院を手掛けた経験も。海外での仕事も多く、中でも北京の中日友好病院は思い出深い。「国民性の違いや言葉の壁に苦労したが、貴重な経験になった」。設計する上で意識していることは、新たな時代への見極めだ。「この先どんな時代になり、どんな建物が求められるのか」―。先を見据えるその姿勢は、刻々と変わる風向きや潮の流れに順応する海上で培われたものかもしれない。
○…長いこと、海越しに鎌倉や葉山の風景を眺めてきたが、近代化に伴って、その姿はずいぶんと変わってしまった。「海からの目線でしか見えない大切なものがある」。そんな折、里山の資本を生かし、ともに豊かに生きる「里山資本主義」という考え方に触れ、視点を海に置き換えた「里の海」文化論を提唱している。「先人が残してくれた美しい海を『里の海』としてとらえ、新たな文化を創造し、発信していきたい」。人生の大半を過ごしてきた湘南の海から新風を吹き込む。