第33回福島正実記念SF童話賞を受賞した 辻 貴司さん 六会在住 38歳
今が作家のスタート地点
○…プロ児童文学作家への登竜門、第33回福島正実記念SF童話賞で大賞を受賞した。受賞作の「透明犬メイ」は、主人公の小学四年生「奏太」と姿が透き通って見えない犬「メイ」の不思議な交流を描いた物語。8月に岩崎書店から単行本が出版される予定で、プロデビューを果たす。「ようやくスタートラインに立てた。安堵した気持ちと、これから新しい物語を書き続けていく決意や書き続けられるかという不安が入り混じった複雑な心境」と思いを語る。
○…10年前、子どもの頃に何度も読んだ「ズッコケ三人組」の著者、那須正幹さんが審査委員長を務める文学賞へ応募しようと筆を執った。経験はなく「なんとなく書けそう」と軽いノリで始めるが、執筆は思うように進まなかった。物語が完成したのは5年もあと。それでも創作意欲は消えなかった。「長い時間がかかったけれど、物語や登場人物、アイデアを考えるのは、ものすごく楽しかった」と笑う。執筆の基礎を学ぼうと、日本児童文学者協会の創作教室へ通い始めると、益々魅力にはまっていく。現役作家の教えは分かりやすく、彼らの人間性の豊かさにも心を打たれた。「人生は一度きり」。作家になろうと覚悟を決めた。
○…小中高は京都で過ごした。就職を機に藤沢に移り住み16年になる。職場で今の妻を射止め結婚。娘が1人。作品作りには妻の存在が欠かせないという。原稿は何度書き直しても最初に読むのは妻。時には厳しく、はっきりと意見して夫を支えている。尊敬し目標とする作家が2人いる。きっかけとなった文学賞の那須さんと、漫画家の藤子不二雄さん。幼い頃、本の中で登場人物と友だちになり、いっしょに謎を解き、冒険をするかけがえのない体験を与えてくれた。2人の作品は今でも色あせず、子どもたちに読まれ続けている。「そんな物語をいつか書いてみたい」。夢は大きく膨らんでいる。