相模原市総合写真祭「フォトシティさがみはら2016」で新人奨励賞を受賞した 西野 壮平さん 本鵠沼在住 33歳
都市の「記憶と体験」粛然と
○…歩きながらの撮影を通じて、世界のさまざまな都市の「ジオラママップ」を制作してきた。ロンドン、ヨハネスブルグ、イスタンブール…その数は20を超える。「自分の知らない世界や新しいものを目の当たりにすると、ドキドキして細胞が喜ぶ気がする」。一方で、旅先でのハプニングも山ほど経験。「初日にニセ警官にお金をだまし取られたり、8人の大男に囲まれたり」と苦笑する。
○…数カ月の撮影や暗室での現像作業、数万枚の写真の切り貼りなど、気の遠くなる工程を経て、アートに落とし込んでいく。しかも大作だ。気力・体力ともに消耗するが、「一つひとつ手を使うことで、あやふやになっていた記憶や身体的体験がよみがえってくる。全てが大切なプロセス」と語る。デジタル化が進み、アート作品もいくらでも簡素化できるようになった。「情報は否応なく入ってくるし、時間や行先までも機械に操作されているような危うさがある。だからこそ、意識的に手間や時間を掛けることに意味があると思う」
○…兵庫県西宮市出身。デッサン教室に通い、絵画の道へ進むと思っていた高校時代。しかし、カメラ片手に四国八十八ヶ所を巡ったことが転機になった。「室内でのデッサンよりも実際に体験したり、カメラで世界を捉える方が刺激的だと感じた。当時の記憶が今につながっている」。大阪芸大で基礎を学び、13年前からジオラマシリーズを手掛けるように。独自の手法や芸術性は注目を集め、世界中で個展が開かれている。作品を床面に配置して上から覗き込ませたり、10m四方の作品の上を歩けたりと、魅せ方も趣向を凝らす。
○…海のある風景や、ゆるい雰囲気に惹かれて3年前に藤沢へ。「いつか日本地図や東海道五十三次をモチーフにした作品にも挑戦してみたい。現代の宿場町を絵巻物風にしたら面白いかな」。ここ藤沢が、独自の視点や体験をもって俯瞰される日が待ち遠しい。