「成績表は宝」10年来通い
定年退職後に学問の面白さに再び目覚め、10年以上、地元の大学の授業を受けに通い続けている人がいる。辻堂神台在住の荒井庸さん(78)。”入学”以来、無欠席で通い続けるなど、熱心に勉強に打ち込む様は在学生さながら。昨年喜寿を迎えたが、「学ぶべきことはまだまだある」と知的好奇心に満ちあふれている。
チョークの音が小気味よく教室内に響く。7月下旬、湘南工科大学(辻堂西海岸)で行われた、数学の授業。この日は前期試験の振り返りで、荒井さんは出題された問題の解答を手際よく書き入れると満足そうにほほ笑んだ。
「答えは3分の4πです」
利用しているのは、同大が地域貢献のために2004年から開講している「アカデミックパス制度」。半期ごと5万円の登録料を支払えば、年齢や学歴を問わず、在学生と同じように年間300科目の開講科目を自由に聴講することができる。
大学に通って今年で12年目。健康管理も兼ねて、自宅から大学までを週2日、徒歩で往復している。
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きっかけは定年退職後、市広報で同制度の告知を見つけた妻の勧めで。「定年して暇だったし、ボケ防止にもなると思ってね」と振り返る。
現役時代は大手重工メーカーに勤務。土木工学が専門で、若いときには横浜ベイブリッジの設計にも携わった。
「文系よりも筋道を立てて答えを導き出す方が性に合う。せっかくなら、理系の他分野のことを学んでみたくて」。機械工学や電気電子工学系の授業が充実する同大での学習はうってつけだった。
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「学生に比べれば、学習の速度も解法を思い出すのも一苦労」。だから授業では誰より熱心に講義に耳を傾ける。1コマにつき、1時間ずつの予習と復習も欠かさない。試験は任意だが、「先生にも教わったことをこれだけ理解できたと伝えたい」とほぼ全て受験してきた。
そんな自身にとって、一番の楽しみが成績表を見る瞬間。昨年は5段階評価のうち、ほとんどが最高評価の「S」だった。「今までの成績表は全て残してある。成長の軌跡が分かる、宝みたいなもの」と朗らか笑みを浮かべる。
昨年は孫が高校受験を控え、「じいちゃんも学校に通っているなら、自分ばかりに成績のことを聞くなよ」と互いに成績を見せ合うように。これまでの”戦績”は2勝1敗と勝ち越し中だ。
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大学での生活は、勉強だけでなく、若者たちとの交流も醍醐味という。目を輝かせながら自分の将来のことを語る学生や海外からの留学生の話に耳を傾けたり、あるときは「友人代表」として結婚式に招かれたり。「ここに来ていなかったら得られなかった出会いがたくさんある」としみじみ語る。
これまで数々の授業を受けてきたが、「まだまだ学ぶべきことはたくさんある」と学習意欲は尽きない。話の終わり、元気の秘訣を尋ねると歯切れよくこう返した。「知りたいという探究心かな」。78歳のキャンパスライフはこれからも続きそうだ。
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