藤沢市アートスペース「長谷川路可 よみがえる若き日の姿」展の作品を修復した 加賀 優記子さん 片瀬山在住 59歳
溢れる情熱 筆に込め
○…展覧会タイトル通り、作品を「よみがえらせた」のは、藤沢を拠点に国内きっての精鋭「鎌倉絵画修復工房」を率いる大家。「”路可ちゃん”の絵は絵の具のはがれがすごかった」と朗らかに振り返る。名画へ直に触れるぜいたくさの一方、一瞬の誤りが、億単位の価値をゼロにし兼ねない、重圧で魂を削られるような世界がある。
○…「私って何?」。ふと思い立ったのは、10歳。母親が油彩を趣味としていたからか、自然と自分探しと自己表現の手段に絵筆を取った。「描き重ねた絵画と膨大な書物の中にも自分は見つからなかった」が、いつしか「油絵の伝統的な古典技法を極めることが己の道」と感じるようになっていた。
○…美大卒業後、一度はバッグデザイナーになり、業界の大賞を獲得する栄光をつかむも、思いが募り、単身パリへ。技法習得には修復作業が役に立つと助言を得て、修復工房で修行しながらルーブル美術館に通い詰め、デッサンに勤しむ姿が館内でも話題に。技術と情熱を買われ、日本人初のルーブル美術館の絵画修復員として採用。仏の巨匠ドラクロワの名作『サルダナパールの死』の修復を手掛けるまでになった。
○…33歳の時「やっぱり日本が好き」と帰国。藤沢に修復工房を開き、後進の指導も行う。結婚し、子どもを出産後も依頼は止まず、「足で揺りかごを動かしながら作業したことも」と笑う。愛娘、愛犬と海岸を散歩するのが何よりの休息だ。
○…「この世界ではなめられちゃいけない。200%の知識と技術を兼ね備え、死ぬほど上手くなくちゃいけない」と語る瞳に、静かに熱い炎が揺らめく。少女のような直向きで純粋な愛情と、孤高の職人のプライドを絵画に注ぎ込む。