片瀬の境川のほとりに佇む木造建築。黒い瓦葺きの屋根に掲げられたのは「十字架」、漆喰の白壁には「金の天使」。カトリック片瀬教会(片瀬海岸2の2の35)は世界でも珍しい木造建て和風建築のカトリック教会だ。
外観に限らず中も純和風。寺院建築を思わせる格子天井に板張りの床、祭壇の脇には床の間。当初は畳が敷かれていたという逸話もある。
「初めて来た方も不思議と懐かしい、と驚かれることが多い」と話すのは宣教司牧部の相澤雅人さん(71)。カトリック教会の特徴である鮮やかなステンドグラスの代わりに、聖堂の両壁には昭和期に作られたすりガラスの格子窓が並び、穏やかな光が差し込む。
完成は1939年。神奈川県で本格的に宣教活動を進めるため37年に横浜教区が新設。最初の拠点として建てられた。指揮を執ったシャンボン大司教の「鎌倉など寺社の多い同地区に馴染む建物を」との発案で、当時でも珍しい寺社建築の教会が誕生したという。
片瀬に拠点が設けられた理由は、明治にさかのぼる。キリシタン禁教令の撤廃後、最初に派遣された仏の男子修道会の神父が、海水浴に訪れた際、地域の地主であった山本庄太郎氏と交流。息子・信次郎氏はカトリック信者でありながら海軍軍人となり、裕仁親王(昭和天皇)の仏語の指南役に就いた。
信次郎氏は裕仁親王の21年の欧州訪問にも同行。カトリック総本山のローマ教皇庁との橋渡し役を務め、その功績から自宅内に聖堂を設ける特別の許可を得ることに。片瀬教会はその聖堂が引き継がれたものという。
長谷川路可とのゆかり
教会は戦争前後の激動の時代の中、信者に限らず広く地域住民の心の拠り所となった。藤沢ゆかりの画家、長谷川路可もその一人だ。祭壇脇の床の間には、路可が献堂の際に送った「エジプト避行」「聖家族」の掛け軸、聖堂の入口には「聖ザビエル日本布教図」が飾られている。
P・ブランチフィールド神父(84)は「これからも多くの人の心の拠り所であり続けたい」とほほ笑んだ。
藤沢版のローカルニュース最新6件
御所見でスマホ相談4月23日 |
|
|
|
|
|