災害の避難計画や施設整備は各自治体が取り組んでいるものの、障害がある当事者の視点が決定的に足りていない。取材を進めるとそんな実態が浮かび上がってきた。その一つが、市内に140ある津波避難ビルだ。市によると現状、バリアフリー化されているかどうかの情報は公開されておらず、車いすで上階に避難できる屋外スロープが設置されている施設はわずか3施設にとどまるという。理由を聞いた。
「確かに屋外スロープは必要だが、改修時期などタイミングが合わないとハード整備は難しい」。市危機管理課の担当者がそう打ち明ける。
津波避難ビルは、避難対象地域外への避難が困難な場合の緊急避難先として指定する。市は民間ビルを含めて140の避難先をホームページ上などで公開しているが、公共施設のうち、上階への屋外スロープを備えるのは昨年8月に移転開設した辻堂市民センター(辻堂西海岸)だけだ。
一方、民間では「湘南白百合学園幼稚園」(片瀬海岸)とスーパーの「FUJI鵠沼店」(鵠沼海岸)の2カ所。市は民間と協定を締結した上で建物を避難先に指定するが、その他民間ビルへのスロープの設置については「市は避難ビルの指定をお願いしている立場。整備をしてくれとは言えない」と説明する。バリアフリーの状況も「防犯上の理由」などから公開されていない。
高いハードル
「津波の恐れがあるときは遠くではなく、高くへ逃げる」。東日本大震災で得た教訓の一つだが、円滑な障害者避難の実現には高いハードルが立ちふさがる。市はエリア内にある学校や病院、高齢者施設に対し、要支援者の避難確保計画の提出を求めているが、一方で一般家庭の車いす利用者数は把握すら難しいのが実態という。
「3助」の視点で
「障害にも様々な種別がある。避難に必要な方法を自助、共助、公助それぞれの視点で考えることが必要だ」
辻堂地区防災協議会会長で、(一財)アジア防災センター理事長の小川雄二郎さん(77)はそう指摘する。
「3助」の視点で考えられる備えとは何か。「例えば車いす利用者であれば避難準備(現・高齢者等避難)の一歩前の段階で避難を始める。共助を担う防災組織などが一歩踏み込んで要支援者と意思疎通を図ることも必要かもしれない」と小川さん。公助についてはこう注文をつけた。
「予め安全な避難場所を用意することは公助が担うべきこと。避難路の整備やバリアフリー化は率先して進めてほしい」
取材を終えて
障害者の避難は第三者の支援が欠かせない。記者が試しに辻堂市民センターのスロープを車いすで上ってみたところ、手押しの5倍近い時間がかかり、想像以上の労力を要した。高齢者一人ではまず不可能だろう。当事者の視点。防災を報じる上で、胸に刻みたい。
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